『苦しめてごめん・・』―消せない過ちを悔いる日々―
 俺は無言で彼女に背を向け部屋を出た。


 数歩歩いて右に曲がると玄関口という間取りになっているのだが、
曲がる直前でミシっという軋む音を俺の耳が拾ってしまった。



 反射的に振り向いた時俺の視界に入ってきたのは、男の足元。


 たった今出て来た台所の出入り口に吊るしてある暖簾の下から見える。



 そっか、話し合いの場には隣の部屋で息を潜めて俺たちの成り行きを
聞いていたであろう小倉俊哉がいたのだ。


 それを知り軽い眩暈が俺を襲う。

 俺は見送り人のいない玄関を寂しく後にした。





◇悲しみの中で



 三嶋友里は初めてのことで不安を抱えながら皇紀に『子供ができたかもしれない』
という言い方で妊娠したことを伝えた。 


 すると不安的中。


『今回は堕ろして。今は時期が悪いと思う。
子供を作るのは俺がそっちに帰ってからにしよう』
と厳しい返事が届いた。


 堕ろす? 私たちの子を? 

 私が独りで産んで独りで産後の立ち回りができないと皇紀は思ったのかもしれない。

 皇紀だけの身勝手な理由ではないのだろう。

 だけど・・身を切られるように辛い。



 堕胎なんて、もし私や皇紀の親が私たちを妊娠した時に堕胎を選んでいたら
私たちはこの世にいないんだよね。



 これってそういうことなんだよね。
 皇紀は分かってるのかな。

 一生後悔しそうで怖い。


 身の内の葛藤と戦い続けている私の元へ追撃のようなメールが深夜遅くに届いた。



 皇紀じゃない別の誰かからのメールなのに書いてあることは
私と皇紀に係わることだった。



『子供のことでうじうじ泣いて神尾を縛り付けるな。

 神尾に相応しいのは神尾に頼ってばかりのあなたではなく、
元気づけることのできる自分こそが結婚相手として相応しい。

 もう神尾に連絡してくんな』
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