鬼の生贄になったはずが、溺愛されています
なにかがすぐ近くにいる!
もしかしたら村人の誰かが戻ってきてくれたのかもしれない。

そんな期待もある中、不安のほうが大きく膨らんでいく。
昔、父親から聞いた話を思い出したのだ。

『いいかハナ。狭霧山には近づくなよ』

それは仕事の休憩中のことだった。
田んぼの畦に座って母親の作ったおにぎりをほおばりながら聞いた話だ。

『狭霧山には怖い鬼がいるんだ。その鬼のせいで山を崩すことができないから、この村はいつでも霧に覆われていて、作物がなかなか育たないんだ』

もしも自分が置き去りにされた場所が狭霧山だったら?
そして、今樽の目の前にいるのが鬼だったら?

考えただけで全身が震えて血の気が引いていく。
父親は昔こうも言っていた。
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