『愛が揺れるお嬢さん妻』 かわいいひと
 中沢さんたちと一緒の瑤ちゃんのいる席・・私はそちらの方向を見まいと、
その一方方向へは首どころか視線さえ動かさなかった。


 不愉快極まりない状況下で負けたくないと思った。

 瑤ちゃんに対して拗ねたりはもちろんのこと怒ったりもしない。

 自分からは絶対話題に出さないしスルーしてやる、と決めた。


 私は瑤ちゃんにテレパシーを送った。



『今後、笑顔でいることもやさしくすることもないから。
そんなことできるわけない、分かった?』


 テレパシーなんて力、私にはない。

 だけど悔しいから念を飛ばしてみる。
 
 いや違う、やはりテレパシーにしとこう。
 

 強く思って相手に思うのみ。


 念は負のイメージがあるから、やり過ぎだよね。

 別に瑤ちゃんに悪いことが起きてほしいわけじゃないし。

 心中穏やかでいられず、味気なく砂を噛むように最後のカレーを
スプーンですくって口に入れた頃、瑤ちゃんが私たちの席へと戻って来た。


『楽しかった?』
なーんて聞いてやらない。


『さぞかし楽しかったんでしょうね』とは口から出かかったけれど。



「おかえりぃ~」

「あぁ・・うん。女が3人も寄ると姦しいわ」

「4人の間違いよ~」

「わたしは姦しくないから数に入れなくていいんだよ」

「ふーん、そっか」



 私は適当に話を合わせ、片付ける為に席を離れた。

 もう駄目だった。


 給食室にトレイを運び器を取り出して置くと、一目散にトイレに向かう。

 決壊寸前。

 あ~ぁ、防波堤を越えて米粒大の水滴が頬を伝う。

 やだぁ~、私ったらぁ~。
 

 タオルハンカチでそっと涙を拭う。

 そこへちょうど子供連れで楽しそうにしている中沢さんが入って来た。


「今日のカレーおいしかったわね」と私に話し掛けてきた。


 私は少しにこやかに小首を傾けて彼女を見た後、無言で視線を下ろしその場を後にした。


『私は味なんて分かんなかったわ、あなたのせいで』

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