『愛が揺れるお嬢さん妻』 かわいいひと
 ただひっそりと本心を胸の中にしまっただけ。


 しかし、その後この綻びが、少し先で出会う、女性と付き合うことへの
免罪符に使われることになるのであった。



 帰宅後部屋に入ると英介は苺佳から改めて礼を言われた。


「英介さん、骨休めしたい休日に美味しいお店に連れてってくれてありがとう。
いろんなソースで食べられて本当に美味しかった」


「ん、ならよかった」



 礼は言われたが、やはり『また行きたい・・連れてって』という言葉を
聞くことはなかった。


 妻は改めて礼を述べてくれた。

 それなのに胸にもやっとする(わだかま)りが残る。
   

 自分でも拘り過ぎているのが分かるくらいに。


 結婚してから、というより出会ってから、苺佳に対してこんな気持ちになったのは
初めてのことだった。



 そこから3ヶ月ほどして英介は串カツをまた食べたくなり仕事帰りに
ひょっこり件の店へ立ち寄った。


 金曜の夜ということでかなりの数の客で賑わっていた。
 

 一人で来る英介は大抵誰かとの相席になる。


 その日、見るからにやり手だと分かる風貌の女性の姿が座った席から見えた。


 いで立ちもフォーマルなものを上手に気崩して着用している。



 3度目に見かけた日、やっぱり混んでいて彼女と相席になり、話を交わすようになった。

 彼女のほうも俺がこの店に何度か来ていたのを覚えており、この日
お互い名刺交換をして別れた。



 海外で化粧品を仕入れてくるバイヤーと、美大の准教授をしていると聞いた。

 傍ら、自分の描いたイラストの販売もやっているという話だった。
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