『愛が揺れるお嬢さん妻』 かわいいひと
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 世間知らずの俊介は、でき婚した後もしばらくはそのことに気付くことはなかった。




 俊介の妻となった吉原理恵は『お金が今月も足りないのよ~どうするのよ~』と

毎月のように夫婦が諍いをするような家庭で育っている為、父親が会社の社長で

裕福に育ち、そこそこ偏差値のある大学を出ていておまけにルックスも悪くない

俊介は、生涯の伴侶として考えた時《値踏みした時》理恵にとっては格好の相手だった。




 とはいうものの、理恵は理恵なりに俊介と仲良く暮らしていくつもりではあった。


 俊介はお金持ちのボンボンの割に偉ぶったり、何かを強要することもなく、
体調が悪いと言うとお弁当を買って来てくれるようなやさしい気遣いのできる人
だったから。



 不満なんてなかった。


 なのに、あんまり友達が電話で羨ましがるものだからついつい、いい気になり、
夫下げ発言になってしまい、気がつくとかなりエスカレートさせてしまった。



 けれど、知らぬが仏、友達が夫に告げ口しない限り本人は知らないでいるだろうし、
すなわち本人に知られなければ無問題、そう思っていた。


 どちらかというと夫として俊介には満足しているし、好きだ。


 やさしくて夫の怒った顔など一度も見たことがなく、普段から甘やかされている
理恵は、どんなことも最後には許されると勘違いしていった? のかもしれなかった。


                ◇ ◇ ◇ ◇



 出先から予定より一日早く帰宅した俊介。インターホンは鳴らさずドアを開ける。


 出張の時に限りいつも鍵は携帯している鍵で開けるのが常だ。

 いつもなら、鍵を回す音で奥から出迎えてくれる理恵が出てこない。



 小さな声で『ただいま』と言ってみる。



 ん! 理恵の話声がくぐもって聞こえてくる。

 電話中だったのかと思い、そっとリビングまでの廊下を進む。




 リビングのドアがぴっちりとは閉まってなかったようで妻の電話する声が
クリアに聞こえてきた。


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