『愛が揺れるお嬢さん妻』 かわいいひと
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『そりゃあそうよ。
元々妊娠なんてしてないんだから、流産のしようがないもんね』


『・・・』


『・・・』





 延々続きそうな妻の電話。
 それ以上聞く必要のなくなった俊介はどっと疲れを感じつつ、
そのまま踵を返し、そっと家を出た。



 先ほどの理恵の話を聞いて、自分はまんまと嵌められて彼女と結婚したのだと、
今まで疑惑として胸の中にあったものがはっきりと確信に変わった瞬間だった。



 俊介は軽い眩暈を覚えた。
 怒りはある。


 けれど、あまりに情けなさ過ぎて、自分が滑稽過ぎて、
大きな怒りにまで辿りつかない俊介だった。


 さて、どうすればいいのか。

 彷徨うように俊介は住宅街の闇に紛れてその場から消えていった。



 俊介は両親や苺佳ひいては古家家を裏切る形で理恵と結婚した手前、
両親や兄弟に相談することは憚られた。


 かと言って独りで抱え込むには問題が深刻過ぎた。

 親友に相談をし、理恵の素行の悪さが露呈するのを根気よく待つことにした。



 家には録音できる機器を備え、土日には出張を入れチャンスを窺った。
 


 家にいない時間を増やすと、理恵の外出がそれに合わせるように増えて行き、
アプリの出会い系で知り合った男と絡んでいるところを、予てより依頼してあった
興信所に証拠を取ってもらい、一件落着。



 費用はそれなりに掛かったが理恵有責で拒否できないところまで
追い込みをかけて離婚した。



 両親や兄弟には離婚成立が決まった段階で申告し、
不甲斐ない自分で申し訳ないと謝罪した。


 離婚については、自分に否があるわけではなかったが、そもそものきっかけは
自分の不徳の致すところの所以でもある為、謝罪に至った。


 俊介が妻との離婚を成立させた頃、すでに兄の英介と苺佳のところには、
眞奈という天使が舞い降りて絶賛幸せの真っただ中であった。

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