冷徹御曹司の偽り妻のはずが、今日もひたすらに溺愛されています【憧れシンデレラシリーズ】

耳に届くのは自分の心臓の音ばかりだ。

そしていっそう近くに響の体温を感じたとき。

「誕生日おめでとう」

響は吐息交じりの甘い声でささやくと、杏奈の身体を背中から抱きしめた。





初川季世の個展は大盛況で、百貨店の美術フロアに設営された会場には多くのファンが訪れていた。

子どもから年配者まで、国籍も性別も問わずの来場者に、杏奈は初川の人気の高さを改めて実感した。

初川の真骨頂である明るいパステルカラーの花が広い会場全体に咲き誇り、一歩足を踏み入れただけで心がふわりと躍り始めた。

会場に初川がいるかもしれないと期待していたが、残念ながら今日は不在で初川の事務所スタッフが対応していた。

混み合う中ゆっくり鑑賞する余裕はなかったが、響と並んで大好きな作品を眺める時間は格別で、杏奈は終始満たされた笑みを浮かべていた。

生涯忘れられない誕生日になったのは間違いない。

その後個展会場を出て地下駐車場に下りると、響はセダンの助手席に杏奈を乗せ、自身も運転席に腰を下ろした。

これは車に興味がない杏奈でも高級車だと知っている有名な車種だ。

先週納車されたばかりの新車らしく、総革張りの車内は新車特有の香りが漂い、濃紺のボディは艶やかに輝いている。

「響君、これありがとう。一生の宝物にする」

杏奈は身体にシートベルトを回したあと、膝の上に置いた紙袋を手に頭を下げた。



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