冷徹御曹司の偽り妻のはずが、今日もひたすらに溺愛されています【憧れシンデレラシリーズ】

運動神経が抜群で、中学入学と同時に始めた短距離では大会に出るたび記録を塗り替えていた。

強豪校から誘われる機会が増える中、試合の応援に訪れた杏奈の「あっという間に響君がゴールしちゃうから寂しい」という言葉がきっかけで、響は短距離から一万メートルにあっさり転向した。

監督の猛反対を押し切っての決断だったそうだが、響は転向後も結果を残し、今も当時の記録は破られていないらしい。

『俺も長い時間走って杏奈にたくさん応援してもらいたかったんだ。今日もいっぱい応援してくれよ』

転向後初めての大会で響は杏奈にそう声をかけ、颯爽とフィールドに向かった。

今となれば引っ込み思案で泣き虫だった杏奈への、兄のような優しさから出た言葉だとわかるが、小学生がそれを理解するのは難しい。

応援してくれと言われたその事実に有頂天になり、杏奈はそれ以来響への想いを手放せずにいる。

その結果二十五歳を迎えた今も、恋愛経験はゼロのままだ。

とはいえ大人になるに従い、大企業の後継者として期待される響の立場や女性にもてるという現実と向き合う機会が増え、響が自分とは別の世界で生きているのだと意識するようになった。

自分が昔も今も響の側にいられるのはお互いの父親が親友同士だからであって、本来なら響のような御曹司との接点などあるはずもない。

いずれ響とは関わりのない人生を歩むことになる。

悲しいが、それが現実だ。


< 13 / 35 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop