冷徹御曹司の偽り妻のはずが、今日もひたすらに溺愛されています【憧れシンデレラシリーズ】
だからといって響への想いを簡単には捨てきれず、せめて近くにいて響の力になりたいという思いだけで、杏奈は北尾食品に入社した。
「どうした? どこもひとが多くて疲れたのか?」
「あ、ううん、全然平気」
運席から声をかけられ、杏奈は慌てて笑顔をつくる。
過保護で杏奈の心の機微に敏感な響の優しさが、今は苦しい。
響にとって自分は単なる妹のようなもの。
それがわかっていても、もしかしたら自分は響にとって特別な相手ではないかと勘違いしそうになるのだ。
「店まで二十分くらいだから、それまで寝ていていいぞ」
疲れているのは最近出張続きで全国を飛び回っている響の方だ。
それも北海道に行く機会がかなり多い。
杏奈は「疲れてないから大丈夫」と明るい声を意識し答えた。
響と一緒にいられる時間を大切にしようと決めたばかりなのに、落ち込んでいる場合ではない。
もちろん一緒にいるのに寝てしまうなど時間がもったいない。
「俺といるときに、無理しなくていい」
響はからかい交じりにそう言って笑っている。
杏奈が強がっているとでも思っているようだ。
「杏奈のことだから、今日が楽しみで昨夜は寝られなかったんだろう?」
「それは……」
杏奈は声を詰まらせる。
たしかにその通りで否定できない。
響と会う日の前夜はいつもそわそわして落ち着かず、なかなか眠れないのだ。
昨夜も例外ではなかった。