冷徹御曹司の偽り妻のはずが、今日もひたすらに溺愛されています【憧れシンデレラシリーズ】
株主総会で世話になる信託銀行の部長にも早いタイミングで挨拶をしたが、そのたび自分が就職したのは金融関係だったのかと戸惑っていた。
今もその状況に大きな変化はなく、杏奈は会社の本業にはほぼノータッチだ。
年間を通してのルーティン的な業務が多いが、中でも最も神経を使う行事である株主総会が先月滞りなく終了し、その事後作業も完了した今は束の間のゆったりとした時期に入っている。
部内の雰囲気も穏やかで、先月までの殺気立った空気が嘘のようだ。
杏奈もここ数日急ぎの仕事はなく、残業もしていない。
夜は両親が営むカフェの手伝いができそうだと思いながら手元の資料を整理していると、新入社員の須田が難しい顔でパソコンに向き合っているのに気づいた。
彼女は新入社員とは思えないほど落ち着いていて、仕事の覚えも早い期待の若手だ。
手元に食べかけのパンが無造作に置かれているが、昼食を食べに出られないほど忙しいのだろうかと、杏奈は眉を寄せた。
「なにか急ぎの仕事でもあった? お昼も食べてないみたいだけど、手伝おうか?」
須田のパソコンを見ると、画面いっぱいに文章と簡単なイラストが並んでいる。
「これって、企画書かなにか?」
「そうです。例の募集に私も応募するので、今追い込み中なんです。週明けが締め切りなのに今日から彼と旅行だから今日中にエントリーしたくて。昼食どころじゃないんですよ」
「ああ、そうなんだ」