冷徹御曹司の偽り妻のはずが、今日もひたすらに溺愛されています【憧れシンデレラシリーズ】
「いらっしゃいませ」
カウンターの奥でプレートにサラダを盛り付けていた杏奈は、ドアベルの音に反応し顔を上げた。
「あ……」
響が店に入って来るのが目に入り、作業の手を止める。
平日の夜に響が店に来るのは珍しい。
響は口もとに笑みを浮かべ、慣れた足取りで最奥のカウンター席に腰を下ろす。
スラリとした長身に仕立てが良さそうなスーツが似合っている。
二十一時を過ぎた今もまだ外は蒸し暑いというのに、ひどく爽やかだ。
「お疲れ様です。発表会が問題なく終わってよかったね」
杏奈は冷たい水を差し出し、響に声をかける。
今日は隣県にある本社工場で関係者やマスコミを招いての新商品発表会があり、商品開発部部長の響もそれに出席していたはずだ。
発表会が滞りなく終了したと、主催部署の広報宣伝部から全社員向けのネット掲示板に報告があがっていた。
「ありがとう。評判も上々でうちのメンバーも喜んでいたよ」
響は安堵の笑みを浮かべ、手元の水を飲み干した。
「タンパク質を意識したゼリーだったよね?」
「ああ。シニア向けのゼリー。筋力が落ちると転倒の不安が高くなるから、その予防のために」
「転倒して骨折したら寝たきりになる可能性もあるしね。早速ネットに好意的な記事が出ていたから、売上げも期待できそうだね」
杏奈の明るい声に、響も目を細める。