ワケアリ(オカルトファンタジー)






「………」



チェスが店番をしている間、リオンは読み終えた本を書斎へと戻しに行った。


その途中に通る、寝室のチェスの枕元に置かれた赤を基調とした金色の装飾が施されている、その宝箱。


中には100年ほど前に実の息子に殺された両親の心臓が今もドクドクと音を鳴らしながら生きていた。


肉体は滅び、心臓だけを生き長らえさせられたその二人は『助けてくれ』とリオンへと念を送る。


その声に唇の端を吊り上げて、リオンはにやりと笑うと、答えた。



「苦しみぬけ。その分、魂は美味くなる」



そして通り過ぎて書斎へと本を戻す。


遠くから、店のベルが鳴り、チェスが「いらっしゃいませー」と明るく対応する。


屈託ない、換算すればもう死んでいる歳の、14歳で止まった100年ほど前に両親と家政婦を殺した少年とは思えないほどの、明るい声。


いや、彼は未だに自分が両親を殺したと思ってなどいない。


ゲームの中で言う、HPがゼロになった仲間を連れて歩いている状態である。次のセーブポイントまで行けば生き返らせることが出来る。そんな認識でしかない。


チェスの声に続くように、呪われた商品たちが一気に叫ぶ。言葉ともつかないその声で、自分を選んでくれと願っている。


自分たちの想いを、願いを、叶えるために。その身体を乗っ取るために。


静かな書斎に小さな笑い声が響く。




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