ワケアリ(オカルトファンタジー)



「…また、美味い魂が喰えそうだ」



書斎の奥、飾られた鳥籠には、今までに店に置いてあった商品で死んだ人間の魂が、ギュウギュウと詰め込まれている。


人形に身体を乗っ取られた少女、その少女に殺された父親。そういえば、ファイに乗っ取られた少女の身体は未だに鬼ごっこを続けているようだ。また殺された人間の魂を回収しに行かねば。


鈴を買っていった少女の魂は偶然拾っていた事故死した少女と寄り添っている。


ペン一つで大量の死者を出した男は、裁ち鋏でペンの書き記すこと全てを叶え続けてきた女と共にある。


この間指輪を盗んでいった女はまだ生きながらえているが、その分、その犠牲になった死者の魂が増えた。女もそろそろくたばるだろう。




その中の一つの魂を取り出して、口に放り込む。



火事になった病院で、数々の人間に踏み潰され内臓が破裂し、骨が砕けて、死んだ老人。



ゴクン、と食べ終わると、リオンは一つ、口元に笑みを貼り付けた。


絶望・悲しみ・憎しみ・怒り・恐怖・殺意・死への怯え・無様な懇願・誰かの名前・痛み。


一緒くたになってリオンの頭の中を駆け巡る。


長く生きてきたと言うのに、今まで一番幸せだったことを思い出すことも無く、誰かへの感謝を述べる事も無く、死んでいった老人。


そう思うと、生きると言う行為はなんと無意味なことなのだろうか。


それに執着する人間と言うのは、なんと無様なものなのだろうか。




「ここにあるものは全部タダだよ」




チェスがいつもの決まり文句を話している。


リオンは口元に薄く笑みを湛えながら黒い外套(マント)を翻し、本を片手に店へと戻っていった。











END

NEXT No.7『黒い塊』


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