ワケアリ(オカルトファンタジー)

黒い塊

ワケアリ No.7
『黒い塊』






黒い塊。


正式的には、時たま覗く白い肌とシルバーのアクセサリーがあるので、真っ黒ではない。


しかし、身につけている衣装と言っても過言では無いその服は、黒いシャツ、黒いズボン、黒いベルト、黒い紐タイ、黒い外套と言えるマント、黒いブーツ、そして黒く長い髪。


闇を被ったような、その格好はこの職業には十二分にお似合いの服装だった。




リオン。職業は死神。




その名を付けられて、一体いくつの年月を過ごしてきただろうか。


そんなことを思い返すほど、この職業に思い入れは無く、思い返す自分の過去も特に無く、リオンはただ『無』に堕ちていた。


そうすれば沢山の声が聞こえる。


木の声も。


風の報告も。


地面に這い蹲る虫の声も。


捻じ曲がったガードレールに括りつけられた枯れた花に取り憑く、死臭を漂わせながら娘を呼ぶ、頭が歪に凹んだ血だらけの男の声も。


未だに空襲で倒れた鉄柱に挟まれたままだと思い込み続け『助けてくれ』と、焼け爛れた顔をこちらに向けて叫ぶ女の声も。


車が通る道路のど真ん中を、いくつもの矢が突き刺さったままの男がもうすぐで引き千切れそうな脚を地面に擦りつけ歩きながら呟く呪いの声も。



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