自国最強の騎士団長様は私が守ります。だって私、世界最強ですから!

 *

 そんな大騒動だった町からの帰り道……。

 グランツ様の愛馬スパークの背に乗り屋敷へと向かっていた。

 それにしても今日は濃い一日だった。

 結局、食事後は強盗殺人未遂事件の事情聴取やらに呼ばれてしまい、デートの続きをすることは叶わなかった。それでもリリアーヌは嬉かったし、楽しかった。

 この日を一生忘れないと思った。

 そう思いにふけっていると、後ろから不安そうな声が聞こえてきた。

「リリアーヌ……今日はすまなかった。午後は仕事をしているのと変わらなくなってしまったな」

「ふふふ…大丈夫ですよ。私は楽しかったですよ」

「そうか……」

 グランツ様の声が心なしか寂しそうで、元気づけたくて振り返ると、ゆっくりと沈んでいく太陽が目に飛び込んできた。オレンジ色に変わりゆく太陽に、リリアーヌの口から歓喜の声が漏れる。

「わーー!グランツ様見て下さい。とっても美しいですよ」

 はしゃぎながらグランツ様の方を向くと、そこには輝くような笑顔を見せるグランツ様の姿があった。

 かっこいい……。

 沈みゆく太陽の光を浴びて、グランツ様が輝いて見える。

 太陽の化身……?

 軍神?

 鬼神?

 グランツ様!

 神々しい!

 両手で口元を押さえて、その姿を目に焼き付ける。

 ああ……何時間でもこの姿を眺めていられるわ。

 尊い!

 リリアーヌがその姿に見惚れていると、グランツが自分の胸ポケットから何かを取り出した。

「リリアーヌ、その……今日の思い出にこれを……」

 グランツ様が手にしていたのは、この国では珍しい真珠の髪留めだった。

「綺麗……」

「気に入ってもらえただろうか?」

「はい」

 私はすぐに髪飾りを自分の髪に付けてみせる。

「グランツ様、ありがとうございます。大切にします」

 グランツ様の手が頬に添えられ、二人の唇がゆっくりと重なる。

 二度目のキスは優しい夕陽の香りがした。

 グランツ様の優しさが、じんわりと心を温かくしてくれる。

 この人を好きになって良かった。



 幸せが二人を包み込んでいたその時、暗い部屋の片隅で一人の男が熱に浮かされたように呟いていた。

「リリアーヌ様……」

 男の声はリリアーヌに届くことも無く、空気に溶け込み消えていく。

「もうすぐお迎えに上がります……待っていて下さい」

 リリアーヌに語りかけるように囁く男……。その男の口角がニヤリと上がり瞳が弧を描いた。その瞳は曇天の様に仄暗く濁っていた。


 

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