女嫌いの天才脳外科医が激愛に目覚めたら~17年脈ナシだったのに、容赦なく独占されてます~
 空を見上げると、月が浮かんでいた。
 自分の心が沈んでいるせいかなんだか物悲しく見える。
 今日のような経験は初めてではない。
 慣れなければいけないが、なかなか割りきれない。
 トボトボと歩いてマンションに帰ると、「お帰りなさい」と優里が現れた。
「お弁当。ありがとう」
 礼を言ってお弁当箱を渡すと、彼女は「うん。お風呂湧いてるよ」と言って、キッチンに向かう。
 いつもなら「今日のお弁当どうだった?」とか感想をしつこく聞くのに……。
 多分、俺がいつもと違うと空気で察したのだろう。
 書斎にカバンを置いて、寝室でスーツを脱ぎ、風呂に入る。
 思い出すのは脳死状態の女の子のこと。
 あんなに小さく、かわいいのに、もう生きられない。
 人を救いたくて医者になったのに、無力だなってつくづく思った。
 二十分ほど風呂に浸かるが、身体が全然温まらない。
 夏だっていうのに寒い……。
 パジャマを着てキッチンに行くが、優里はいなかった。
 寝たか?
 そう思いながら、棚からグラスを出して、ウィスキーを注ぐ。
 飲まなきゃやってられない。
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