偽装溺愛 ~社長秘書の誤算~

 家族について、俺はあまり話さない。

 大学を卒業してからは家も出て、正月くらいしか帰っていない。

 不仲なわけじゃないが、実家に帰るとどうしたって俺は母親と姉に勝てないし、それが嫌だ。

「それで、年上嫌い?」

「そ。女に偉そうに説教されるの、マジでムリ」

「偏見だろ。年下だって説教はするだろうし、女王様気質の女はいるだろ」

「まぁな。だから、ま、年下にしても俺はそういう女はパス。で、年上は例外なく、パス」

「ふぅ~ん。梓は、お前には年上の女が似合いそうとか言ってたけど」

 俺はククッと喉を鳴らして笑った。

「梓ちゃん、まだまだ俺を知らないな。これは、もっと親交を深める必要があるな」

「ねーよ!」



 本当に、意外だな……。



 皇丞が、唯一無二の女を見つけた。

 俺が梓ちゃんに手を出したら、皇丞はもう俺を許さないだろう。

 昔、恋人が俺に乗り替えたと知った時の、平然と頷く皇丞を思い出す。

「皇丞」

「ん?」

「おめでとう」

「サンキュ」

「女の子だといいな。梓ちゃんに似た、可愛い子」

「お前……。年上がダメだからって、三十以上下でもイケるとかないだろうな」

 何を心配しているのか。



 まったく、変われば変わるもんだ。



「五十過ぎてそんな若い女を相手にできるなら、それはそれで嬉しいね」

「おいっ! 俺の娘を若い女とか、相手にできるとか、エロい言い方すんな」

「生まれる前から親バカかよ……」

「今なんつった」

 皇丞にジロリと睨まれ、ふっと息を弾ませる。

「お前の娘は俺にとっても娘同然だ。初めて外泊した時は一緒に男を殴りに行くよ」

「外泊なんてさせるかよ」

「つーか、まだ娘だって決まってないだろ」

「女の子が欲しいんだよ。梓似の可愛い子に、パパ大好きってほっぺにチューされたい」

「……」

 梓ちゃんが聞いたら肩を落として呆れるか、眉をひそめてドン引くか。

「皇丞。お前こそあんまり先走ると梓ちゃんに怒られるぞ」

「そんなこと、理人に言われなくてもわかってる」

「ホントかねぇ……」

 ぬるくなったビールを飲み干し、ジョッキをテーブルに置いた時、気が付いた。



 今、名前――。



「じゃ、俺は帰るわ。欣吾をよろしく」

 皇丞が立ちあがる。

「はっ!?」

 欣吾はいつの間にか寝息を立てている。

 皇丞はジャケットから財布を出すと、一万円札を三枚、テーブルに置いた。

「おい。今日は――」

「――妊娠祝いは梓に渡してくれ」

 そう言うと、皇丞はさっさと店を出て行った。

 いつもこうだ。

 皇丞には敵わない。

「子供……か」

 網の端っこで真っ黒に焦げた激辛ホルモンを眺めながら、俺はしばらくぼうっとしていた。


< 12 / 169 >

この作品をシェア

pagetop