誰にも言えない秘密の恋をしました       (君にこの唄を捧ぐ)

コンサート当日

月日は11月下旬に入り、厚いコートが必要なくらい寒くなって来た。

ついに待ちに待った北條蓮のファイナルコンサートの日。

兄とはコンサート会場で待ち合わせだ。

仕事も定時で終わり、何とか予定の電車に飛び乗り会場へと急ぐ。

付き合い始めて2ヶ月経った。
蓮とは、ほぼ毎日電話で話はしている。

だけど、会えたのは少しだけ…。

蓮の休みに合わせてシフトを組んでみたけれど、丸一日休みがある日は珍しく連休なんてほとんど無い。

あまりに忙しいスケジュールに、やっと出来た休みを邪魔するのも気が引ける。

まだまだ、心菜の中には遠慮もある。
蓮を独り占めしてしまう後ろめたさだってある。

抱き合い、恋人同士の甘い休日を過ごしたとしても、通常の日々に戻れば、あれは夢だったんじゃ無いかと未だに思ってしまう。

今日のコンサートも蓮に会うのは1週間ぶりだ。

小走りでコンサート会場に向かう。

駅から会場まで既に人が溢れているから、きっとみんな蓮のコンサートに行く人達なんだと心が速る。

心菜はオフホワイトのダッフルコートをなびかせながら、コンサート会場まで人混みを掻き分けひたすら走る。

このコートは蓮からのプレゼントだ。

なぜか、心菜の洋服を買う事が趣味となった蓮の家を訪れる度、増える服達はクローゼットの一角に収まり、今すぐにでもそこで生活出来る勢いだ。

勿体無いからと、作り置きのご飯を作りに家に行く度、着替えて帰って来る事にした。

カシミヤ素材のコートは暖かく、その下は膝丈のフレアのワンピースを着ている。

全てが蓮のコーディネートだ。

最近そんな服を職場に着て行くと、目敏く山田先生が気付いて聞いて来る。

今朝も、『そんなおしゃれしてどこ行くの?』と聞かれてしまった。

北條蓮のコンサートだと話すと羨ましがられ、次は一緒に行きたいと言われたので困ってしまった。

その蓮とお付き合いしているなんて言える訳がない。

蓮が入院中、心菜が世話係をしていたのはもちろん知っていたから、その繋がりで呼んで貰えたんだと、上手く伝えて何とかその場を逃げたけれど、信頼している人に嘘を付くのは心が痛い。

いつかみんなに話せる日が来るのだろうか…。

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