誰にも言えない秘密の恋をしました       (君にこの唄を捧ぐ)
「心菜!こっちだ!」
兄の声を聞き、心菜は目をキョロキョロさせて兄を探す。

会場の階段脇に背広姿の兄を見つけて駆けつける。

「お兄ちゃん、久しぶり。」

「おお、半年振りか?夏休みに会ったきりだよな。なんか見ないうちに垢抜けたな。」

垢抜けた!?
着ている服のセンスを言っているのだろうか?

心菜は内心ドキンとしながら、

「たまにはコンサートだし、おめかしして来たんだよ。」
と、伝える。

「なんか食べて来れたか?」

開場は19時の為、本当にギリギリでまったく心菜は何も口に出来なかった。

「そんな時間無かったよ。お兄ちゃんは?」

「俺も外回りでそのまま来たから何も食べてない。まぁ、帰りにラーメンでも食べて帰るか。」

お互い土日も関係無く仕事だから、就職してから本当に兄に会う機会が無かった。

「おじいちゃんは元気?」

会場の入場ゲートに並びながら近況報告をする。

「心配しなくてもじいちゃんは元気だ。毎週遊びまくってる。俺より充実した毎日だ。」

良かったと、心菜は思う。
電車で30分程の実家だけど、忙しさにかまけてなかなか帰って無かったから少し後ろめたさがあった。

「元気で何より。何があったらすぐ連絡してね。お兄ちゃん1人が背負い込まないでね。」
 
兄はずっと実家暮らしをしてくれているから、その分頼ってしまうけど、心菜だって祖父孝行をしなくちゃと思っている。

「お兄ちゃんは久美さんと順調?」
兄には同い年の5年付き合っている彼女がいる。

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