仮面夫婦を望んだ冷徹な若社長は妻にだけ惚けるような愛を注ぐ。【逃亡不可避な溺愛シリーズ1】
「いやぁ、それは、うん」
「はっきりとして」

 麗美のこんな態度は珍しい。

 だからこそ、芽惟は底知れぬ薄気味悪さを覚え、彼女に説明を求める。

 すると、麗美は観念したように両手を挙げた。

「まぁ、これは私が条件として頼まれて引き受けたことだから、自己責任といえば、自己責任なんだけれど……」
「……誰に、何を頼まれたの?」

 何となく、嫌な予感がする。

 そう思っていれば、麗美の顔がぱぁっと明るくなった。彼女の視線は窓の外に向けられている。

「た、助かった……」

 彼女が心の底からの気持ちのように、そんな言葉を零す。

 その所為で、芽惟は呆然としてしまった。……本当に一体、何が何なのか。

 混乱する芽惟を他所に、麗美は椅子から立ち上がる。その後、誰かに「こっちです!」と声を上げていた。

(誰かと、待ち合わせ……?)

 だが、芽惟はそんなこと欠片も聞いていない。誰かと待ち合わせならば、待ち合わせだとしっかりと教えてくれなくては。

「ねぇ、麗美――」
「――お待たせしました」

 芽惟の声にかぶせるように、誰かがそう声を上げる。

 その声は、男性のものだった。心地いい声に、芽惟が驚いて目を瞬かせる。

 視線を下げれば、きれいな革靴が視界に入る。……かなり上等なもののように思える。

 ゆっくりと視線を上げていく、彼の身に着けているスーツもかなり上等なものだと、わかる。伊達に社長令嬢なんてやっていない。

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