仮面夫婦を望んだ冷徹な若社長は妻にだけ惚けるような愛を注ぐ。【逃亡不可避な溺愛シリーズ1】
「今日、近くのスーパーで適当に買いだしてきます」
「は、はぁ」

 咎められなかったということは、構わないということだろう。

 そう判断して、芽惟は調理に移る。芽惟は朝はその日の気分で食べるものを決める。今日はパンの気分なので、食パンをトースターの中に入れて、焼き始めた。

「夕食は、出来る限り私が作りますので。いらないときは、連絡をください」
「……あ、はい」

 芽惟の勢いに押されてか、敦也が若干戸惑ったような声で返事をする。

 これでは、どちらが上なのかわからないな。

 心の中だけでそう呟きつつ、芽惟は油を敷いて熱したフライパンの上に卵を落とした。

「お昼とかは、会社で食べられますよね?」
「まぁ、大体は。会食とかもあるので……」

 敦也の言葉に、芽惟は「わかりました」とだけ返す。

「……芽惟さん。別に、そこまでしなくてもいいです」

 しばらくして、彼がそう言ってくる。でも、芽惟からすればそうはいかない。

「いえ、家のことは私がさせていただきます」
「……家政婦でも雇います」
「それだと、私がいる意味ないじゃないですか」

 芽惟は決して贅沢がしたいから敦也と結婚することを決めたわけではない。

 会社に支援してもらった分、彼の役には立ちたいと思っているのだ。

「私にできることは、精一杯させていただきます。……私、働かないと落ち着かない性質なので」

 それっぽい理由を伝えれば、敦也はこれ以上言うことはあきらめたらしい。静かに「じゃあ、お願いします」と言ってくれた。
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