18婚~ヤンデレな旦那さまに溺愛されています~

 母の病気が見つかったのは遥が8歳になる頃だった。

 病状は思わしくなく、治療の甲斐もなく母がこの世を去ったのは、遥が10歳の誕生日を迎える直前だった。

 父は相変わらず仕事が忙しいと、母の看病はおろか病院への見舞いもあまり来なかった。

 病室で、母は最期に遥に微笑んで言った。


「立派な人になりなさい。秋月家を継ぐのはあなたよ」


 弱々しい声なのに、とても力強い言葉だった。まるで、情念でもこもっているような、激しい感情が伝わってきた。


「必ず、立派になります。だから、お母さん、早く病気を治してください」


 遥は泣きながら母に訴えた。

 母が死ぬことは夢にも思わなかったのだ。

 周囲はまだ幼い子供に真実を伝えるのは可哀想だと、治療をすれば治ると遥に言っていた。


「遥……絶対に……負けない、で……」

 母は遥の手を握ったまま、力尽きた。


「お母さん……お母さん、返事をしてください……お母さん」


 周囲にいた親戚たちがざわめき、医者があれこれと何かを言っていたが、遥の耳には何も入ってこなかった。

 彼はただ、目の前の現実が信じられず、悲鳴じみた声を上げるだけだった。


「うあああああっ! おかあさん! おかあさん!」


 父が病室に駆けつけたのは、それからわずか数分後のこと。

 遥は父の姿に目もくれず、ただ母の手を握って泣き続けていた。



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