一つの夜が紡ぐ運命の恋物語を、あなたと
「――というわけで、大きなやぎはトロルをやっつけ、無事に三匹は山でお腹いっぱい草を食べた……。そんな話しです」

 由依が簡単に絵本のあらすじを話し終えると、誰からともなく「へぇ。そんな絵本あるんだ」と声がした。

「大智って、子どもの頃から勧善懲悪、みたいな話が好きだったってこと?」

 少なくなってきた料理をつまみながら、納得した様子で中村が口にする。
 確かに内容で言えば、橋の下に住むトロルという悪い鬼を退治する話しだ。園にいる、特に戦いごっこが好きな子は、大きなやぎが格好いい、とこの絵本を好む傾向にある気がした。けれど大智は、そうではないような感じを受けた。

「どうかな。どちらかと言えば、やぎの勇気に感銘を受けていたのかも知れない。無意識に、自分もこんな風に強くなりたいと思っていたのかもね」

 視線をテーブルに落とし、ビールを時々口にしながら大智は言う。その顔はどこか、寂しそうにも哀しそうにも見えた。

「……そっか。大丈夫、大智は充分強くなったって」

 佐倉はその理由を知っているのだろう。そして他の二人も。うんうん、と頷く顔は佐倉を肯定しているように見えた。
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