一つの夜が紡ぐ運命の恋物語を、あなたと
「お帰り、早かったね」

 ソファに座る美礼は、すでに羊のようなモコモコとしたルームウェアに着替えていた。その前にあるマグカップからはほんのりとコーヒーの香りが漂っていた。

「大智もコーヒーいる? うちに通う妊婦さんが美味しいデカフェ教えてくれて、今日買ってきたんだ。着替えるでしょ? 淹れとく」

 美礼は立ち上がるとそう言いながらキッチンへ向かう。

「ああ、ありがとう」

 相談と聞いていたから、何かトラブルでもあったのだろうかと構えていたが、特に普段と変わりない。とりあえず心配事ではなさそうで、安堵しながら着替えに行った。
 またリビングに戻ると、美礼はソファに戻っていて、その前のテーブルにはもう一つマグカップが置いてあった。

「ありがとう。いただくよ」

 美礼の隣に座りカップを持つ。美礼がわざわざ用意してくれた、自分専用のものだ。
 美礼は隣でカップを持ったまま、テレビを眺めている。いつもはドラマが多いが、今日はニュース番組らしい。しばらく見ていると、最近放送されたという、事務所の入るビルを経営する会社の特集だと気づいた。自分は特に興味はないが、美礼は録画していたらしい。画面は、見覚えのある場所から、ない場所に切り替わっていた。
 
『瀬奈先生!』

 空耳なのかと思った。小さな子どもの声は、テレビの中ではっきりそう言った。吸い寄せられるようにその画面を見ると、そこに映っていたのは、紛れもなく――。

「………由依」

 画面の向こうで、子どもたちに絵本を読み聞かせしている彼女の名前を呼んでいた。
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