一つの夜が紡ぐ運命の恋物語を、あなたと
 八十に近い祖母が、また元気な姿に戻ることは難しいだろう。あんなにも自分の足枷のように感じていた祖母から解放されたのに、今は逃れようと思えなかった。

(貴女に……僕の子を、見せることができるのだろうか……)

 祖母にそれを理解できるとは思えない。けれどなぜか、それが叶えばいいと思った。

 施設を出ると、車に乗り込む。
 ここから家までは一時間と少しの距離だ。

(もうすぐ……会える……)

 結果がどうなろうと、今はただ再会できたことを喜ぼう。そう心を決めて、深呼吸をすると車のエンジンをかけた。

 途中、慣れ親しんだ地元の街並みを通り都内に向かう。二年前、暗い気持ちでこの道を戻ったことを思い出す。
 なのに今は、不思議なくらい気持ちが晴れ晴れとしていた。

 家に帰ると、美礼はいなかった。駅まで由依を迎えに行くと言っていたから、もう出たのだろう。もうすぐ約束の時間で、途端に落ち着かなくなる。
 リビングで意味もなくあっちへ行きこっちへ行きしていると、玄関の開く気配がした。
 出迎えに出たほうがいいのか、ここにいたほうがいいのか、くだらないことを悩みウロウロしていると、後ろから声がした。

「何してるの? 動物園の檻の中にでもいる?」

 笑いながらそう言う美礼に振り返ると、その後ろに彼女の姿があった。後ろめたいことがあるような、不安げな表情。その理由はわからないでもない。けれど、そんなふうに思う必要はないのだ。

「……お邪魔……します」

 一瞬だけこちらを見たあと、視線を伏せると彼女は言う。それに微笑みながら答える。

「いらっしゃい、由依」

 彼女の不安が、少しでも解消されればいいと思いながら。
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