一つの夜が紡ぐ運命の恋物語を、あなたと
(独身……だったんだ……)
若木先生が薬指に指輪をしていることは、最初から気づいていた。だからずっと、結婚していると思っていたし、あえて彼に確認することもなかった。
「そういえば、されてましたね。気にしたことはなかったですが」
大智は若木先生が独身だと知っていたようだ。なのに指輪を気にしていなかったのが彼らしい。
若木先生は自分の左手に視線を落とす。
「あぁ、これ? これは……。俺の、お守り……だな」
向かいからだと、その表情がよく見える。若木先生は、慈しむようで、どこか寂しそうな瞳を指輪に向けていた。
一瞬シンと部屋が静まるが、それを破ったのは、若木先生自身だった。
「って、俺の話はいいからさ!」
その顔は、さっきの表情が嘘だったように明るい。
「じゃあ、俺も聞いていい? 美礼ちゃん、彼氏作らないの? 俺みたいなおっさんと遊んでたら、いつまで経ってもできないぞ?」
美礼はムッとしたように眉を顰める。ハラハラしてしまうが、口を挟むことなどできるわけはない。
「おっさんって! 八つしか変わりません!」
「八つは……しか、じゃないだろ」
腹を立てている様子の美礼を、若木先生は飄々と笑いながら交わす。それに余計カチンと来たのか、美礼はテーブルに手を付き立ち上がった。
「私のこともいいです! とっとと片付けて、ケーキ食べますよ? だいたい若木さん、二人を茶化しに来ただけじゃないんでしょ?」
空になったお弁当の容器を集めながら、吐き捨てるように美礼は言う。
「まあ、ね」
苦虫を噛み潰したような若木先生を前に、自分も慌てて立ち上がった。
「美礼さん、私も手伝います」
「じゃあ由依ちゃんに、お茶淹れてもらお」
何もなかったように美礼は言い、それに頷くと、二人でキッチンへ向かった。
皿を並べると、美礼がケーキをそこに乗せていく。大智と再会した日に出してもらったのと同じ店のものだ。
「ごめんね、由依ちゃん。変な空気作っちゃって」
「いえ、そんなことは……」
このキッチンからダイニングは見えるが、オープン型ではなく話しまでは向こうに届かない。美礼は眉を下げながら謝っていた。
「あのね……。私、若木さんに片思い中なんだ。全く相手にされてないけど」
美礼は皿を見つめたまま寂しそうにそう言う。
それに、やはり、と思う。けれど"相手にされてない"とは思えなかった。
「応援してます、私」
その恋が成就するのを願いながら言う自分に、美礼は「ありがと」と優しい笑顔をみせていた。
若木先生が薬指に指輪をしていることは、最初から気づいていた。だからずっと、結婚していると思っていたし、あえて彼に確認することもなかった。
「そういえば、されてましたね。気にしたことはなかったですが」
大智は若木先生が独身だと知っていたようだ。なのに指輪を気にしていなかったのが彼らしい。
若木先生は自分の左手に視線を落とす。
「あぁ、これ? これは……。俺の、お守り……だな」
向かいからだと、その表情がよく見える。若木先生は、慈しむようで、どこか寂しそうな瞳を指輪に向けていた。
一瞬シンと部屋が静まるが、それを破ったのは、若木先生自身だった。
「って、俺の話はいいからさ!」
その顔は、さっきの表情が嘘だったように明るい。
「じゃあ、俺も聞いていい? 美礼ちゃん、彼氏作らないの? 俺みたいなおっさんと遊んでたら、いつまで経ってもできないぞ?」
美礼はムッとしたように眉を顰める。ハラハラしてしまうが、口を挟むことなどできるわけはない。
「おっさんって! 八つしか変わりません!」
「八つは……しか、じゃないだろ」
腹を立てている様子の美礼を、若木先生は飄々と笑いながら交わす。それに余計カチンと来たのか、美礼はテーブルに手を付き立ち上がった。
「私のこともいいです! とっとと片付けて、ケーキ食べますよ? だいたい若木さん、二人を茶化しに来ただけじゃないんでしょ?」
空になったお弁当の容器を集めながら、吐き捨てるように美礼は言う。
「まあ、ね」
苦虫を噛み潰したような若木先生を前に、自分も慌てて立ち上がった。
「美礼さん、私も手伝います」
「じゃあ由依ちゃんに、お茶淹れてもらお」
何もなかったように美礼は言い、それに頷くと、二人でキッチンへ向かった。
皿を並べると、美礼がケーキをそこに乗せていく。大智と再会した日に出してもらったのと同じ店のものだ。
「ごめんね、由依ちゃん。変な空気作っちゃって」
「いえ、そんなことは……」
このキッチンからダイニングは見えるが、オープン型ではなく話しまでは向こうに届かない。美礼は眉を下げながら謝っていた。
「あのね……。私、若木さんに片思い中なんだ。全く相手にされてないけど」
美礼は皿を見つめたまま寂しそうにそう言う。
それに、やはり、と思う。けれど"相手にされてない"とは思えなかった。
「応援してます、私」
その恋が成就するのを願いながら言う自分に、美礼は「ありがと」と優しい笑顔をみせていた。