一つの夜が紡ぐ運命の恋物語を、あなたと
 大智と若木先生はチーズケーキ、自分と美礼は季節限定だという洋梨のタルト。お弁当でお腹いっぱいだと思っていたが、やはりデザートは別腹で、一口食べた途端、いくらでも入りそうな気がした。
 取り留めもない、明るい話題で笑いあいながらケーキを食べる。それがなくなりかけたころ、話が途切れたタイミングで若木先生が切り出した。

「忘れないうちに……例の事件の話をしとくわ」

 口調こそ軽いが、表情はどこか暗い。その若木先生に、みんな視線を向けた。

「とりあえず、佐保さんからも、示談には応じないと聞いてる。それでいいんだな?」

 示談、つまりお互いの話し合いで解決する方法。もちろん相手側は先に示談を申し入れてきた。けれど樹は、それには応じないと突っぱねた。

「はい。佐保さんは、示談に応じれば、彼女はまた同じことを繰り返すと。僕も同じ考えです」

 その大智の返事に若木先生は大きく頷いた。

「だな。彼女の父親も、今まで高額の金払ってなんとかしてたけど、さすがに今回は庇いきれないって。けど目が覚めたみたいだな。ここまでやるとは思ってなかった、必ず更生させるって」

 あの事件後、樹はもちろん、自分も大智も、そして美礼も聴取を受けた。耳にした彼女の生い立ちに、ほんの少し同情する。お金をかけることが愛情だと、そう育てられた彼女は、歪んだ愛情を他に向けるようになったようだ。
 彼女の起こしたことは、到底許されることではないけれど、それでも哀しいと思った。

 若木先生は一つ息を吐く、わざとなのかパッと明るい表情に切り替わった。

「にしても……。動機に驚いたっつうか。まさか美礼ちゃんに心酔してたとはな。ごめんな、俺が変なアドバイスしたからだよな」

 若木先生は申し訳なさそうに美礼と大智にそれぞれ向いて謝る。
 元々彼女は大智に付き纏っていたが、一緒に歩く美礼を見て、理想の女性像を重ねて憧れていたらしい。その思いが行き過ぎた結果、自分が美礼との仲を裂いたと思い込み、そして……。
 自分も大智も、のちに聞かされた彼女の動機に驚いていた。

「謝らないでください。僕も早く、対策を講じていればと反省しています」
「そうですよ、若木さん。何がどうなるかなんて、誰にも想像できないですって。それに、悪いのはあの子です」

 自分も会話を聞きながら、小さく頷く。

「そう言ってもらえて、気持ちが軽くなったわ。ありがとな」

 若木先生は胸を撫で下ろしたように、優しく笑みを浮かべていた。
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