一つの夜が紡ぐ運命の恋物語を、あなたと
 両親と住んでいたのは隣りの県だった。といっても東京までは電車で一本で出られる場所。由依は高校も短大も都内の学校に通っていた。
 両親が一生懸命働き購入したのは中古の一軒家。小さいけれど三人で暮らすには十分な広さで、それまで住んでいたアパートも近く生活圏も変わらない場所にあった。
 由依が生まれる前から両親はその土地に住み、これからもずっと住むはずだった。
 事故のあと、近所には手を差し伸べてくれる人もいた。けれど見せかけの親切心で、多額の保険金を持っているだろう由依に取り入るもの、身寄りがないのをいいことに遠縁を名乗るもの。悲しみに暮れる由依の前にそんな輩が現れるようになった。
 そこから救い出してくれたのは、由依が今でも一番信用している(たつき)と、事故の裁判を担当してくれていた、弁護士の万智子(まちこ)先生だった。
 二人の力を借り、由依はその家を手放して逃げるように都内に越したのだった。

 どれくらい長い時間、昔を思い起こしていたのだろうか。気がつくと同じシャンプーの香りとともに、ふわりと背中が温かくなった。
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