一つの夜が紡ぐ運命の恋物語を、あなたと
 大智は深い深い濃紺の夜空のような瞳の中に、陽炎のように揺らめく光を灯していた。

「本当に……後悔、しない?」

 由依に尋ねながら、まるで自分に尋ねているような、そんな気配を感じる。もし彼がこんなことを始めたことを後悔しているならここで終わりにしよう。由依はそう思いながら、吸い込まれてしまいそうな美しい瞳をじっと見つめ唇を動かした。

「阿佐永さんこそ……。後悔しませんか?」

 そんな質問をされると思っていなかったのか、大智は息を呑んだ。しばらく間が開き、小さく首を横に振ったあと、柔らかく笑みを浮かべた。

「大智って、呼んで? ……由依」

 こんなにも優しく名前を呼ばれたのは久しぶりかも知れない。そしてその、答えにならない答えに、大智が後悔していないことも、この先に進みたいのだと言うことも察した。

「大智……さん」

 名前を呼んだ途端に緩やかに上がるその口元を見て思い出す。電車の中で静かに読書していた人を。きっと彼は、自分の存在など知らないだろう。会話したこともなく、お互い名前も知らないのだから。
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