一つの夜が紡ぐ運命の恋物語を、あなたと
「あっ! 見て!」

 ずっと水槽を眺めていた陽向は興奮したように声を出す。見ればちょうど目の前に、水中で羽をパタパタさせたペンギンが現れた。
 陽向はそのペンギンに向かって一生懸命手を振っていた。

「ペンギンさん、来てくれて良かったね」
「うん! 昨日保育園で先生が、ペンギンの絵本読んでくれたの。だからどうしても見たかったんだ!」

 満足げに陽向が話すことに、二人は耳を傾けた。そのあと陽向は、堰を切ったように話し出す。保育園の友だちや先生の話、自分の家族の話など。

(そう言えば、お母さんも私の話をちゃんと聞いてくれたっけ)

 共働きで自分も保育園で育った。帰ってからきっと忙しかっただろうに、母は『あとで』と言うことなく、由依の話を聞いてくれていた。

(大智さんも……そうだったのかな?)

 陽向の話に相槌を打ちながら、優しく話しかけている大智を見て思う。
 もしかすると子どもが好きなのかも知れない。だからこそ、あんな願い事に賛同してくれたのだろう。まるで本当の父親のように、大智は慈愛に満ちた表情をしていた。

「すみませんでした」

 周りはいつのまにか、ずいぶんと人が減っていた。呼びかけられて振り返ると、陽向の母が安堵した顔で立っていた。
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