13番目の呪われ姫は今日も元気に生きている

2、13番目の呪われ姫はときめきの過剰摂取をご希望です。

 呪い、というものがこの国には存在する。
『天寿の命』
 寿命以外では死ねなくなる呪い。
 その呪いが発揮されるのは13番目の王の子と決まっている。
 発揮される呪いも呪われる人間も分かっているのだから、本来ならこの呪いは回避できるはずだ。
 が、今代の陛下の子には残念ながら呪われ姫が存在する。
 理由は単純明快で、陛下が色欲に負けたから。ただそれだけのことだ。
 13番目の王女様が生まれた時、陛下直々に
『第13子呪われし姫を殺した者に褒賞を取らす』
 と命令が下された。
 そんな冗談みたいな理由で、今日も数多の暗殺者に狙われているはず……なんだけどなぁと伯爵はご機嫌な彼女にもてなされながら、なんでこうなったと仏頂面でため息をつく。

「知っていますか、伯爵。世の中には"キュン死に"なるものが存在するそうです。私、ぜひそれを試してみたいです」

 そんな伯爵の心情など1ミリも汲み取る気のない彼女は、猫のような金色の目をキラキラさせながらそんなことを宣った。
 彼女の名前はベロニカ・スタンフォード。この国の13番目の王女様、呪われ姫本人である。

「はぁ?」

 一国の姫に対して、眉を顰め何言ってんだコイツとばかりに無礼な声をあげたのは、キース・ストラル伯爵。

『伯爵家以上の貴族は最低一回、どんな手段を使っても構わないから、呪われ姫の暗殺を企てろ』

 という傍迷惑な陛下からの命令で、この離宮に忍び込み、うっかりこの呪われ姫に気に入られ"暗殺依頼"をされた不幸な青年である。

「姫、本当に死ぬ気あります?」

「ええ、もちろん! いつでも私は全力で伯爵に殺されたいと思ってます」

 と、前のめり気味にとてもいい返事をしたベロニカは両手をあげて殺される気満々だとアピールする。
 彼女曰く、呪い子と後ろ指をさされ、命を狙われ続ける生活に疲れたとの事だが、元気過ぎる姫に本当に死ぬ気があるのかと疑念が拭えない今日この頃。
 そんな伯爵に対し、

「だから伯爵が持って来た毒だってちゃんと飲んだでしょう?」

 ベロニカは得意げに伯爵が持参した小瓶を振って見せる。

「でも、死ねないんですよねぇ。何せ、私呪われているもので」

 ふふっと楽しそうに笑ったベロニカはどこか他人事のようにそう言った。
< 5 / 61 >

この作品をシェア

pagetop