桜ふたたび 前編
「それで?」
何が〈それで?〉なのか、澪は首を傾げた。
「半日も悩んだ結論は?」
「けつろん……?」
ジェイは頷くと、やおら席を立った。
何をするのかと不安な面持ちの澪を窓際に立たせ、部屋の照明を落とす。
自分は椅子を回して腰を下ろし、腕組みして正面から澪をじっと見据える。
澪の背後では、大粒の雨に窓ガラスが悲鳴をあげている。密閉された室内でも、風の咆哮が竜の喉笛のように漏れ聞こえる。
ガラスを突き破りそうな嵐の勢いに、怯えて身を固くする澪に、ジェイは問いかけた。
「君は、私とどうなりたい?」
あっと、澪はジェイの背後の扉を見た。
ジェイは澪を断崖絶壁に追いつめて、選択を迫っているのだ。今ここで、決断しろと。
渦の前で身動きできない澪に、逃げる道を許さない。
窓の外が青白く閃き、部屋が一瞬、白光に包まれた。
轟く雷鳴に、澪は反射的に目を瞑り、耳を塞ぐ。
震える顔を上げたとたん、今度は稲妻よりも強い眼光に正視されて、澪はまるで金縛りに遭ったかのように、静止した。
「頭で考えずに、シンプルに。今この瞬間、胸の内にある想いだけを掬い上げればいい」
古の森に響く神託のような、甘く厳かな声音。
すべてを見透かすような、冷たく澄んだアースアイ。
澪の体は、蛇に睨まれた蛙のようにすくんで動かないのに、不思議と思考は次第に澄み渡っていく。
まるで、彼の瞳の奥に広がる静謐な湖の水底へと、引き込まれてゆくように。
〈シンプルに〉
澪は手を胸に、目を閉じて、ジェイの言葉を唇の上で反芻した。
シンプルに──過去も未来も置き去りにして、懸念も不安も手放す。
そこにあるのは、温かくふわふわとした気持ち。
虹色の光をまとったシャボン玉のように美しく、けれどきっと、触れると壊れてしまう。頼りなくて、切ない気持ち。