侯爵夫人の復讐
デリーは苛立っていた。
ソフィアとの夜が最悪なものとなり、デリーの苛立ちは凄まじかった。
まず、こうなったのは食事のせいだと言い、料理人を解雇してしまった。
そのため、執事のセドルは急遽新しい料理人を雇うことになったのだが、以前とは比較にならないほど味が変わってしまったのだ。
ようするに、不味くなったのである。
これに不満を示したのは義母だった。
「はぁ、こんなもの食べられないわ」
義母は食事が始まって前菜を口にした途端、フォークをがちゃんっと荒々しく皿に置いた。
義父は渋い顔をしながら、もしゃもしゃ野菜を咀嚼している。
キルアは静かにフォークで野菜の傷んだところを避けている。
食材は新鮮ではなく、味つけも薄い。そのことにデリーが声を荒らげた。
「何の味もしないじゃないか。これじゃ俺たちはまるで兎だ!」
キルアは黙々と野菜を食べながら、兎になったデリーを頭に思い浮かべて楽しんでいた。
次に出された料理はチキンのソテーだった。
義母が不満げにぼやく。
「わたくしビーフステーキが食べたいのに」
そばに直立不動の姿勢でいるセドルは淡々と答える。
「恐れながら申し上げます。材料費が少なく、牛肉を購入することができないのです」
義母は仕方なくチキンをひと口食べるも、すぐにフォークを置いてしまった。
キルアは丁寧にフォークとナイフを使ってチキンをカットし、黙々と食べ進める。
デリーは苛立ちのあまり、ついにテーブルを叩いて怒鳴った。
「おいっ、もっとマシな料理人はいないのか?」
「以前の料理人は大変腕のいい人でした。今回もそれと同等の者を探しましたが、見つかりませんでした」
「言い訳をするな! こいつを首にして別の奴を雇え!」
ダアンッとふたたびデリーがテーブルを叩きつけると、食器がガチャンッとわずかに浮いた。
その拍子に義父は口に入れようとしたチキンをぽろっと落としてしまった。
セドルは動じることなく、冷静に事実を話す。
「給金が低すぎるのでこれ以上の腕の者を探すのは困難でございます」
「それを何とかするのがお前の仕事だろうが!」
デリーはスープ皿を持ち、セドルに中身をぶちまけた。
スープはセドルの顔に直撃し、ぽたぽたと衣服に沁みていく。
だが、セドルは微動だにせず、直立不動の姿勢を崩さない。
その余裕が気に入らないのか、デリーはさらに声を荒らげた。
「お前も首にされたいのか!」