侯爵夫人の復讐
「お待ちください、旦那さま」
キルアが止めに入った。
平静を保ちながらやんわりとデリーに忠告をする。
「セドルを解雇してしまったら、この屋敷の管理が滞ってしまいますわ」
「お前、こいつの味方をするのか?」
「そうではありませんわ。以前の料理人が辞めてしまっただけで混乱してしまうくらいですもの。今セドルがいなくなればこの家の秩序が乱れてしまいますわ」
デリーは表情を引きつらせる。
たしかにキルアの言い分は間違っていない。屋敷の規律が乱れると今後デリーが好き放題にできなくなる可能性がある。
「おい、執事。妻に免じて許してやろう。だが、これからは今まで以上の働きを見せろ。腕のいい料理人を何としてでも探せ。給金は少しなら上げてもいいぞ」
「ご配慮いただき恐縮でございます」
セドルが頭を下げるとデリーはふんっと鼻を鳴らした。
そして、キルアに顔を向ける。
やけに今日のキルアが綺麗に見えたので、デリーはにやりと笑った。
「おい、キルア。今夜は俺の部屋へ来るんだ」
「なぜでございましょう?」
「うるさい! お前は俺の妻だぞ。俺のために奉仕するのが妻の役目だろう」
「……かしこまりました」
デリーはソフィアと上手くいかなかったのでキルアに相手をしてもらうことにしたのだ。
キルアはわざと遅れてデリーの部屋を訪れた。
待ちくたびれたデリーはすでにボトルの半分ほどワインを飲み干していた。
寝間着を着たキルアを見て、デリーはグラスを荒々しく置き、鼻息までも荒くした。
キルアがベッドに腰を下ろした瞬間、デリーは見境なく飛びつき、キルアをベッドに押し倒した。
「旦那さま、落ち着いてくださいませ」
「うるさい! お前は俺の妻だ。俺を満足させることがお前の仕事だ。文句言うな」
「文句などございませんわ。しかしそれほど興奮してしまうと……」
「うるさい、うるさい、うるさい! 黙って俺の言うとおりに……」
デリーはぱたりと動かなくなった。
圧し掛かられた状態のキルアは何とかデリーから逃れる。
デリーは豪快ないびきをかきながら眠っていた。
「興奮しすぎると眠くなってしまう薬だそうですよ? 旦那さま」
キルアはデリーが飲み残したワインボトルを見つめてぼそりと言った。
「では、おやすみなさいませ。旦那さま」
キルアはにっこりと微笑み、デリーの寝室を出て行った。