侯爵夫人の復讐

 翌朝、デリーは不機嫌な顔でキルアのところへ向かった。
 ちょうど自室で朝食をとっていたキルアは、突然デリーに頭からグラスの水をぶっかけられてしまった。

 食べていたパンが水浸しになり、ドレスも濡れた。
 キルアが呆然としていると、デリーは怒りの形相で詰め寄った。


「夫を置いて優雅に朝食か? お前は何様のつもりだ?」
「何度も起こしてさしあげましたの。けれど、旦那さまは私の手を払いのけてしまわれましたから」
「言い訳をするな! せっかくお前を妻として使ってやろうと思ったのだぞ。もう二度とないからな! 後悔しろ!」
「承知しました」


 キルアが冷静に答えると、デリーは苛立ちで顔面を歪ませた。

 いつものマーブル模様よりもいっそう複雑な顔をしている。
 例えるなら、でろでろに溶けてふたたび固まったチョコレートが歪んだ形を作り上げたみたいだ、とキルアは思った。

 そばに控えていたセドルが乾いた布巾を持ってきて、キルアの濡れた顔を拭いた。
 その様子を見て、デリーはついに爆発した。
 セドルの手を掴み、キルアから無理やり放した。


「おい、執事。お前は俺の妻に近づきすぎだ」
「失礼いたしました」
「お前は目障りだ。下がれ」
「しかし……」

 セドルが躊躇していると、キルアが静かに声をかけた。


「いいわ。あなたは下がってちょうだい」
「かしこまりました」

 セドルはぺこりと頭を下げてから、部屋を出て行った。


「おいっ、何をぐずぐずしている? 俺の分を持って来い!」


 デリーは使用人たちに命令し、自分の朝食を持ってこさせることにした。
 キルアはうんざりしたような顔でため息をついた。

 今まで朝食はひとりでゆっくり楽しんでいたのに、その時間を邪魔されて少々苛立っていた。
 そして、やはりデリーとは会話が噛み合わず、ストレスでしかない朝食を2時間も一緒にさせられた。



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