侯爵夫人の復讐
のちほどデリーはセドルを自室に呼び出した。
最近キルアとセドルがふたりでいるところをよく見かける。
ソフィアが一緒にときはあまり気にならなかったが、よく見てみると執事が妻に言い寄っているようにしか思えないのだった。
「明日からは妻の世話はせず、馬小屋の掃除でもしていろ」
デリーの命令にしばし無言のあと、セドルは真顔で返答した。
「奥さまのそばに仕えさせていただくのは奥さまのご命令でございます。あと、馬小屋の掃除は別に担当がございます」
「俺に口答えする気か!」
デリーはダンッと執務机を拳で叩いた。
セドルは書類の置かれていない綺麗な執務机をぼうっと見つめる。
デリーは苛立ちを顔に出し、唾を飛ばしながら怒号する。
「この家の主は俺だ! 俺の命令が絶対だ!」
「では奥さまにそのことをお伝えしてからご命令に従います」
セドルはくるりと背を向けて部屋を出て行く。
しかしデリーはその態度にも腹が立ち、勢いよくセドルの肩を掴んで振り向かせた。
「妻のところへ行くことは許さん。今後は妻に近づくことも許さんぞ」
「失礼ですが、なぜそれほどまでに感情的になられるのでしょうか?」
「お前がずっと妻とふたりきりでいるからだ」
「旦那さま、誤解されては困ります。ただ仕事をしているだけで奥さまに対して個人的な感情はございません」
「当たり前だ! キルアは俺の妻だからな。俺以外の男が近づくことなど絶対にあり得ない」
ふんっと鼻を鳴らしてセドルを見下すように見つめるデリーに対し、セドルはあからさまに怪訝な顔をした。
「お言葉ですが、旦那さまがそれほど奥さまのことを好いておられるとは到底思えないのですが」
「な、何ぃっ!?」
「これまで旦那さまは奥さまとまともに会話をされたことがありません。奥さまがこの家でどのように扱われているかご存じでしょうに、一度も助けてさしあげたことがないではありませんか」
「このっ……生意気なことを言いやがって!」
デリーがセドルの胸ぐらを掴んだ。