侯爵夫人の復讐
しかしセドルは動じることなく、むしろ目を見開いて少々感情的に声を上げた。
「旦那さまは別の女性のことで頭がいっぱいですから、奥さまが普段どのようにお過ごしか、何が好みか、まったく知らないのでしょう」
「お、お前は知っているとでも言いたげだな!」
「ええ、もちろんです。お仕えしているお方の好みの茶も、香水も、ドレスも、すべて把握しております。それが執事の務めでございます」
「知ったような口を叩きやがって!」
デリーはついにぶち切れてセドルを殴りつけた。
ドガッと激しい音が室内に響き、セドルは吹き飛ばされ、壁に激突した。
床に崩れ落ちたセドルを見下ろし、デリーは鼻息荒く罵る。
「身の程を知れ!」
しんと不気味なほどの静けさに包まれる。
セドルは息をしていないようだ。
デリーはふたたびセドルに近づいて胸ぐらを掴んでみるが、ぐったりして動かなかった。
慌てたデリーは勢いで放り投げる。
「ま、まさか……死んだ?」
セドルの顔はみるみるうちに青白くなり、血の気がなくなっていく。
デリーは慌て出す。
「くそっ、どうにかして死体を隠さねば」
だが、そのとき。
がちゃりと部屋の扉が開いて、そこには義母が使用人とともに立っていた。
「デリー、大きな声が聞こえたから何事かと思って……」
デリーはちっと舌打ちする。
「旦那さま、セドルが一体……」
使用人の言葉を聞いてデリーは笑いながら言い訳を述べる。
「この執事が急に俺を殴りつけてきたんだ。だから正当防衛としてやり返したら動かなくなった。い、医者だ……まだ、助かるかもしれないぞ」
医師が来て診察を受けたセドルは、頭の打ちどころが悪いとして意識不明のまま近くの診療所に入院することになった。診療所のスタッフたちがセドルを運んでいるあいだ、キルアは静かに見守った。
その様子を見たデリーは口もとに笑みを浮かべた。
「これで妻に近づく男はいなくなった」