侯爵夫人の復讐
去っていくキルアを追いかけようとするデリーを、ソフィアが止める。
ソフィアはデリーの腕にしがみついたまま、訴えるように言った。
「あんな女、ただの雑用係でしょ。夜のおともはあたしがするわ」
「そ、そうだが……」
「どうしてあの女に執着するの? あの女はお飾りの妻でしょ? 愛しているのはあたしだけでしょ?」
「そうだ。愛しているのはソフィアだけだ。しかしキルアが俺の妻であることも事実だ。俺以外に関心を向けるのは気に入らない」
「今まではそんなことなかったでしょ? あたしと会えなくてあの女に気持ちが揺れたの?」
「そんなことはないさ。今でも抱きたいのはソフィアだけだ」
「だったらいいじゃない。いつもみたいにあの女に雑用をさせておいて、あたしと楽しくやりましょ」
「そ、そうだな……」
デリーはやはりキルアのことが気になるようだ。
すでにいなくなったキルアの面影を見つめるように、デリーはぼんやりしている。
その様子を見たソフィアはちっと小さく舌打ちした。
「……邪魔くさい女。執事みたいにいなくなればいいのに」
ソフィアは機会をうかがってキッチンにふらりと立ち寄った。
ちょうど15時のお茶の時間であり、使用人が食器を用意して準備している。
ソフィアの気配に気づいた使用人が驚いて声を上げた。
「ソフィアさま? ご用がありましたらお呼びいただければこちらから出向きましたのに」
「いいのよ。ところでこれは奥さまのお茶の準備かしら?」
「そちらは大奥さまでございます。奥さまのはあちらです」
「ふうん、そう」
使用人は下っ端で、他の使用人たちにこき使われているようだ。
他の使用人たちは別の場所でさぼっているのをソフィアは見た。
だからこそ、キッチンへ堂々と入ることができたのだ。
「ところで喉が渇いちゃったわ。何か飲み物をくれない?」
「は、はい。すぐにお水をご用意します」
使用人が水を汲んでいるあいだ、ソフィアはこっそりと懐から瓶を取り出した。
瓶の蓋を開けて、中の液体をぽたぽたと茶器に落とす。
ソフィアはにやりと笑い、瓶を懐に隠した。
「ソフィアさま、お水でございます」
「ありがとう。お邪魔してごめんなさい。早くしないとお茶が冷めてしまうわね」
「ああ、大変! では私はお仕事がありますのでこれで」
使用人は急いでお茶を運んでいく。
その様子を見てソフィアはククッと笑った。
「デリーのパートナーはあたしよ。あんたは寝込んでいればいいわ」