侯爵夫人の復讐
使用人が用意した紅茶をいつものように口に含んだキルアは違和感を覚えた。
味は特に悪くはない。何も気にしなければそのまま飲み干してしまうだろう。
しかし、キルアは薬や毒についてはよく知っている。
セドルほどではないが、彼からいろいろ学んだ。
「このお茶は美味しいわ。けれど、少し冷めてしまっているわね」
キルアがそう言うと、使用人はすぐさま頭を下げて謝罪した。
「申しわけございません。すぐに淹れ直してきます」
「今日はこれでいいわ。けれど、いつものあなたならしっかりしているから、今日はどうしたのかしらと思って」
「あ、あの……ソフィアさまがいらっしゃって、お水をお出ししていたのです。それで少し時間がかかってしまいまして……」
キルアは紅茶をじっと見つめた。
紅茶の色がだんだんラズベリーの赤に代わり、ソフィアの歪んだ顔が見える。そこにマーブルチョコレートが混ざって何とも不気味な色に変化する。
「あの、奥さま……」
使用人が怯えた様子で声をかけてきた。
紅茶はいつもの色をしている。
キルアは不安げな表情の使用人に極上の笑顔を向けた。
「そうなの? それなら仕方がないわ」
「本当に申しわけありません。これからはきちんと淹れ直してから来ます」
「気にしないで。遅れるとお義母さまからお叱りを受けるのでしょう?」
「は、はい……奥さま、お優しい……」
使用人がうるうると涙目になる。
キルアは優しく声をかける。
「私は少々のことで怒ったりしないから、お義母さまを優先してね」
「ありがとうございます、奥さま!」
使用人が出ていったあと、キルアは窓際で外を見つめた。
ちょうどソフィアがデリーと腕を組んで出かけるところだ。
「やってくれるじゃない」
キルアは微笑を浮かべたまま、ぼそりと言った。
「明後日のパーティに私が出席できないように毒を盛ったのね」
毒と言っても軽いものだが、腹を下し、発熱して、5日くらいは寝込んでしまうものだ。
「いいわ。お望みどおり、あなたにデリーのパートナーを譲ってあげる。その代わり……」
キルアは馬車に乗り込むソフィアの後ろ姿を凝視して言い放つ。
「無事でいられると思わないことね」