侯爵夫人の復讐

 キルアはその日、セドルの見舞いに来ていた。
 セドルは頭を強く打ったものの命に別状はなかった。


「死んだふりをするのは得意なので」
「それでもひやひやしたわ」
「申しわけございません。どうしても、旦那さまの言動が許せなくて」
「めずらしいわね。あなたが感情的になるなんて。一体何を言われたの?」
「たいしたことではありません」


 たいしたことではないのに感情的になることは、セドルに限ってはあり得ない。
 そのことをキルアはよく知っているが、彼が言いたくないようだったのでそれ以上詮索しなかった。


「ところで今日は伯爵家のパーティではありませんか?」
「ソフィアを連れていったわ」
「よろしいのですか?」
「ええ。今頃はきっと最高のショーが繰り広げられているはずよ」

 キルアはふふっと笑った。


  *


 パーティ会場ではデリーがソフィアを連れて現れた。
 ソフィアは大きな花柄のついた真っ赤なドレスを着ていてかなり目立っている。

 赤が好きなソフィアはこの日のためにデリーに頼んで新しく仕立ててもらった。
 最初からこのパーティにキルアを参加させるつもりなどなかった。


 ソフィアが侯爵家を出ていったのは、デリーに愛想をつかしたわけではなかった。
 出て行くことでデリーにショックを与え、彼にとってどれほどソフィアが大切かわからせるつもりだった。

 同時に毒を手に入れるために闇業者と会っていた。
 医師も判別がつかないほどの毒を手に入れるのは大変だったが、計画はうまくいった。

 今後は邪魔なキルアを排除するためにじわじわと毒入りの紅茶を飲ませて弱らせていくつもりだ。


「うふふ、あたしが一番輝いているわね」


 パーティ会場で多くの人の視線を浴びて、ソフィアは満足げに笑った。
 デリーもとなりで誇らしげにしている。
 周囲が口々にふたりのことを話題にした。


「あれは愛人のお方ではないかしら?」
「まあ、ついにパーティへ奥さまをお連れにならなくなったのね」
「奥さまは精神的なご病気で侯爵さまはご苦労なさっているそうよ」
「大変ね。役立たずの妻を娶った方は」


 正妻キルアの悪口を言う雰囲気に、ソフィアは大満足だった。


「うふふ。ついに社交界であたしのほうがデリーの妻にふさわしいと認めさせてやったわ」


 ソフィアはご機嫌でデリーと腕を組み、これまで培った社交辞令を存分に発揮しながら貴族たちの好感を得ていった。
 彼らはみな、デリーの妻にはソフィアがふさわしいと言い出した。


 周囲に注目される中、オーケストラの演奏が始まり、ダンスの時間となった。
 デリーはソフィアの手を取り優雅にダンスを踊る。

 
「まあ、ソフィアさまはダンスもお上手ですこと」
「これなら立派に侯爵夫人としてやっていけるのではないか?」


 周囲の声を聞いたデリーは満足げに笑い、ソフィアは勝ち誇った表情をした。
 すべてが上手くいっていた次の瞬間。


 ビリリリリリリ――!



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