侯爵夫人の復讐
「きゃああっ!」
ふたりを見ていた貴族の婦人が声を上げた。
何事だと周囲もざわついている。
ソフィアは涼し気な胸もとを見下ろして青ざめた。
なんとソフィアのドレスが胸から腹あたりまで破れて下着が見えてしまっていたのだ。
「な、何……なんなのよこれは!」
狼狽えるソフィアを見て、デリーは慰めるどころか怒りの形相になった。
婦人たちからは「まあ、はしたない」と言われ、男たちからは好奇の目で見られた。
ソフィアは羞恥のあまり逃げるように会場を出ていく。
そしてデリーも苛立ちながらソフィアのあとを追いかけた。
「一体どうなっているんだ?」
デリーはソフィアを気遣うどころか罵倒した。
ソフィアも苛ついており、デリーに怒鳴り返す。
「そんなことあたしに訊かないでよ!」
「あんな人目の多いところで恥をさらしやがって」
「あたしのせいだと言うの? そもそもこのドレスはあなたが用意したものでしょ?」
「くそっ! せっかくお前を社交界で生きていけるようにしてやったのに、恩を仇で返しやがって!」
「何それ? すべてあたしのせいだって言うの? だいたいあなたはあたしがあんな目に遭ったのに庇うことすらしないのね。あんなに男たちに見られても平気だって言うの?」
「平気なわけないだろ! 怒りで殴りたくなるのを必死に堪えているんだぞ」
「殴る? あたしを殴るの?」
「当たり前だ! お前が恥をさらしたんだからな! お前はやはり娼婦だ。侯爵家にふさわしくない!」
「ひどいわ! あなたに命令されてパーティに来たのよ。そうでなければこんなところ来なかったわよ!」
ぎゃあぎゃあ騒ぎ立てるふたりのそばを通り過ぎる人たちはひそひそ話した。
「いやあね、下品だわ。やっぱり夫人のほうが淑やかだわ」
「本当に」
ソフィアは真っ赤な顔をして拳を握りしめ、歯を食いしばる。
そんな彼女の前でデリーがさらに追い立てるように言った。
「お前には呆れたよ、ソフィア。やはり俺の妻はキルアしかいない。別れよう、ソフィア」
「な、なんですって!?」
「もう俺に近づくな。家にも来るんじゃないぞ」
デリーはソフィアに軽蔑の眼差しを向けてから、さっさと帰ってしまった。
残されたソフィアははだけた胸もとを押さえ、怒り狂った表情でデリー後ろ姿を睨んだ。
「キルアだわ。あの女がやったのよ。許せない」
ソフィアは目を血走らせて歯をギリギリと噛みしめる。
「あの女、殺してやる!」