侯爵夫人の復讐

 ソフィアが両手で銅像を持っている。
 銅像はデリ―の血で染まっていた。


「ああ、だから言いましたのに。旦那さまは相変わらず人の話を聞きませんね」


 すでに意識を失っているデリーに向かってキルアは冷静に言う。
 そして、顔を上げてソフィアを見据えた。
 ソフィアはかなり逆上している様子で正気でないことはキルアにもわかる。
 しかし、キルアは落ち着いて質問を投げかけた。


「あなた、デリーを殺してどうするの? 憎いのは私ではなくて?」
「うるさいわよ! デリーはあたしのもの。あんたに寝取られるくらいなら、デリ―を殺してあたしも死ぬわ」
「そう。だったら、できれば私の見えないところでおふたりでどうぞ」
「このっ……盗っ人女めっ! お前も地獄へ堕ちろおおおっ!!!」


 ソフィアが血まみれの銅像をキルアに向かって叩きつけようとしたが。
 その背後からソフィアの口が布で覆われた。


「ふぐうっ……!」


 ソフィアは意識を失い倒れる。
 銅像は床に落下し、彼女自身はセドルに支えられていた。
 キルアは彼に笑顔を向ける。


「セドル、もう体調はいいの?」
「はい。問題ありません」
「そう、よかったわ。ソフィアは死んだの?」
「いいえ。眠らせているだけです。このまま牢獄へ入っていただきましょう」


 セドルは淡々とそう言いながら、ソフィアを縄でぐるぐる巻きに縛っていく。


「デリーはまだ息があるわね。医者を呼んでちょうだい」


 セドルはソフィアの縄を持ったまま静止する。
 キルアは冷静にセドルに命じた。


「医者を呼ぶのよ、セドル。このままだとデリーは死ぬわ」


 セドルは顔を上げてキルアを見つめる。
 彼はめずらしく感情的に表情を歪ませている。


「キルアさま……俺は、この男を生かしておきたくありません」

 キルアはため息をつく。


「気持ちはわかるわ。でも、最初に約束したわよね? 私たちは直接手を下さないって」

 キルアの言葉に、セドルは苦悶の表情を浮かべる。


「この男が生き残れば、俺の姉は浮かばれない!」

 感情的に声を荒らげるセドルを落ち着かせるように、キルアはやんわりと声をかける。


「落ち着いて。せっかくの計画をここで台無しにするわけにはいかないわ」

 セドルは一度深呼吸をすると、いつもの冷静な顔に戻った。


「奥さまのご命令に従います」

 キルアはにっこりと笑った。



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