侯爵夫人の復讐

 デリーはベッドから出られない生活が続いていた。
 医師によると頭の打ちどころが悪かったため、足に痺れが残り、うまく歩けないということだった。


「くそっ! すべてあの女のせいだ! よくも俺を殴ってくれたな」

 デリーは八つ当たりするように、毎日キルアに怒鳴り散らした。
 しかしソフィアはあくまで殺人未遂のため、重罪とはならず、そのうち釈放されるだろう。
 

「出てきたら容赦しない。牢獄にいたほうが楽だったと思い知らせてやる」

 暴言ばかり繰り返すデリーを目の前にしても、キルアは冷静だった。


「ところでキルア」
「はい、何でしょう? 旦那さま」
「たったこれだけか?」

 デリーは眼の前に出されたスープと硬いパンを見て舌打ちした。


「はい。うちにはもうお金がありませんから」
「なんだと? 財産管理は母がやっていたはずだ」
「ええ。お義母(かあ)さまが宝石やドレスに使い果たしてしまいましたわ」
「そんなものはすべて売ってしまえ!」

 キルアは深いため息をつく。


「それだけではありません。お義父(とう)さまが投資に費やしてしまいました」
「投資だと!?」
「はい。勝てる見込みのない勝負に出たのでございます。この家の財産のほとんどを失ってしまいました」
「一体何をやっているんだ!!」

 怒号を飛ばすデリーを冷静に見つめながら、キルアは事の経緯を思い出していた。


 *


「これほどうまくいくとは思わなかったわね」
「はい。あの男は欲に溺れる人間ですから簡単でした」


 セドルの報告によると、義父はとある商会に唆されて莫大な財を投資にまわしたらしく、それが詐欺だったことをあとで知ったようだが、すでにその商会は忽然と姿を消していた。
 もちろん、誘導したのはセドルだ。
 その詐欺集団に入り込み、侯爵家の財産と引き換えにして報奨金をもらっていた。

 もちろん侯爵家の財産の中にはキルアの相続した金は入っていない。
 財産は義母が管理していると見せかけて、実は裏ですべてキルアが操っていた。

 義母は目に見える財産を使って贅沢三昧。義父も義母に隠れてこっそり自分の財産を全額投資。
 大儲けどころか大損をした義父は腑抜けた状態になっていた。
 おまけに金を失ったことで愛人から愛想をつかされ、今さら義母に取り入るも、ふたりは毎日金のことで大喧嘩をしている。


 キルアは使用人たちにこっそり退職金を与え、次の仕事も見つけてきて辞めさせた。
 そのうち給金が払えなくなると踏んで、前もってしっかり金を渡しておいたのだ。

 使用人がほとんどいなくなり、侯爵家はがらんとしていた。


 キルアは身のまわりの整理を終えると、デリーの部屋に義両親を呼びつけた。
 そして、一枚の紙切れを取り出す。
 それを見たデリーと義両親は驚愕の表情で固まった。
 キルアは冷静に、淡々と彼らに言い放つ。



「旦那さま、どうぞ離縁してください」




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