侯爵夫人の復讐
デリーと義両親はキルアの言ったことが理解できないというように固まっていた。
キルアは真顔で離縁状を突きつけている。
デリーの表情がみるみるうちに憤怒の形相に変貌した。
「バカなことを言うな! お前は頭がおかしくなったのか!」
デリーの顔は真っ赤に染まっている。
黒いチョコレートにラズベリーソースをかけてみたけど失敗したような顔だとキルアは思った。
「私の頭は正常ですわ、旦那さま」
「それならなぜ離縁などとふざけたことが言えるんだ!」
「だって、あなたがこの離縁状を私にくださったのですよ? わざわざサインまでして」
「くっ……そんなものは冗談に決まっているだろう! そんなこともわからないのか!」
デリーは今にも飛びかかってきそうな勢いだ。
しかしベッドから動けない状態なのでキルアを引っ叩くことができない。
代わりにデリーは何度も何度も布団を殴りつけた。
そのたびに布団にもこっもこっと柔らかい拳が沈む。
キルアはそれを見て笑いそうになったが、あくまで真顔で冷静に淡々と告げる。
「旦那さま、人との縁は大切にするものですわ。けれど、あなたはずっと私を蔑ろにしてきた。これはその結果なのです」
「蔑ろだと? お前は何を言っているんだ? 俺はお前に部屋を与え、食事を与えただろう? それの何が不満なんだ?」
「それでは馬や羊と一緒ですわ」
キルアははぁっとため息をつく。
すると、今度は義母が応戦した。
「あなた、生意気にもほどがあるわよ。妻の役割も果たしていないくせに離縁を申し出るなんて。決して許されることではないわ!」
「お義母さま、先に離縁状を突きつけてきたのは旦那さまです」
デリーはばつの悪そうな顔で言いわけをする。
「それはお前が妻らしいことをしていないから、躾けのつもりだったんだ!」
キルアはそれを無視して、義父に話を投げかける。
「そういえば、お義父さま。お訊ねしたいことがございます。あなたはメリルという女性をご存じですか?」
呆然としている義父は眉をひそめて答える。
「い、いや……知らないな」
「そうですか。名前も覚えていらっしゃらないのですね? あなたの死んだ浮気相手ですわ」
それに対して反応したのは義母だった。
彼女は怒りの形相で声を荒らげる。
「お前はなんてことを言うの! 今はそんなことを言っている場合ではないでしょう。デリーと離縁など絶対に許さないわよ。お前がいなくなったら誰がデリーの世話をすると言うの!」
「お義母さま、少しお黙りください。今は別の話をしています。そして私は旦那さまのお世話はいたしません」
「んなっ……!」
唖然とする義母をよそに、キルアは今度はデリーに目を向ける。
キルアの表情は怒りが滲んでいる。