侯爵夫人の復讐
固まっている3人を無視してキルアは説明を続ける。
「この屋敷の財産についてですが、私がすべて清算しました。半分は孤児院や教会へ寄付をし、残りは使用人たちの退職金に当てました。もう、この家にはお金はありません」
淡々と告げるキルアに真っ先に反応したのは義母だ。
「そんなっ……そうしたら、わたくしたちは明日からどうやって暮らせばいいのよ!」
キルアは毅然とした態度を示す。
「働いてください。あなたは健康そのものでしょう?」
「デリーの世話をしながらどうやって働けと言うの? だいたいわたくしは働いたことなどないのよ!」
「そんなことは私の知ったことではありません」
「キルア!」
義母はキルアに訴えが通じないと思ったのか、今度は義父に頼み込んだ。
「あなたからも何か言ってくださいよ!」
しかし義父は虚ろな表情でただ絶望感に打ちひしがられるだけだ。
「ああ、終わった……この侯爵家はもう、だめだ……没落する」
「何を弱気なことをおっしゃっているのですか! あなた! なんとかして!」
義父が頼りにならないと思ったのか、義母は今度はデリーにすがりついた。
「ああ、デリー。お父さまはもう使いものにならないわ。ねえ、嘘でしょう? 人を殺したなんて冗談よね?」
「……俺は悪くない……あいつが俺を拒んだせいだ……勝手に死んだんだ……俺は悪くない」
ぶつぶつひとりごとを繰り返すデリーを見て、義母は呆気にとられた。
デリーと義父は絶望の表情でうな垂れている。
もはや、義母が頼れるのはたったひとりだけだった。
義母は急に愛想笑いをしながらキルアに近づいた。
「ねえ、キルア。わたくしは何も悪くないわ。むしろ、家族を失ったあなたを迎え入れてあげたのよ。わたくしだけでも助けてちょうだいよ」
義母の猫の鳴くような声を聞くと、何だか猫に失礼だとキルアは思った。
意地汚くて他人の不幸を笑いながら生きてきて、いざ自分に災いが降りかかったら自分だけ助かろうとするのだから。
「都合のいい人ね」
「え?」
「ほんっとに汚い!」
キルアは怒りのあまり震えている。
ぎりっと歯噛みしながら義母を睨み据える。
「あなたの夫と息子によって人が死んだのに、あなたは自分だけ助かろうとする」
義母は顔を引きつらせながら、ぐっと喉を鳴らす。
「デリーを溺愛しているのでしょう? だったら地獄の果てまで親子ともどもご一緒したらいかがですか?」
キルアはもう『旦那さま』呼びをしない。
義母は愛想を振りまくか、いつものように感情的にキルアを引っ叩くか、どちらもできずに狼狽えていた。