侯爵夫人の復讐
逃げ道を失った義母は感情的に夫に怒鳴る。
「あなた! あなたのせいですわ! あなたがあっちこっちに愛人を作るから怨みを買ったのですわ!」
しかし義父はショックが激しすぎるのか、虚ろな表情でぶつぶつと呟くばかり。
「もうだめだ……侯爵家は終わりだ……死ぬしかない……」
「あなた! どうにかしてよ! あなたと心中なんて絶対に嫌よ! わたくしだけは助かりますからね!」
すると義父は驚愕の表情で義母を見つめた。
「お前は薄情だな。今までずっと贅沢をさせてやってきたのに」
「はあ? 贅沢ですって? わたくしが侯爵家を守っているあいだ、あなたはよそでたくさんの愛人を作って遊んでいたじゃないの! こっちは夫人として大変な目に遭いながら必死にこの家を守ってきたのに! 愛人ほど贅沢をしておりませんわよ。勘違いしないでいただきたいですわ!」
「うるさい!」
義父はまともに返答できない腹いせか、急に感情を爆発させた。
「くそっ! お前みたいな下品な女を嫁にもらったのが間違いだった!」
「な、何ですって!?」
呆気にとられて口をぱっくり開けている義母に対し、義父が怒りの形相で責め立てる。
「お前がもっと品性のある従順な女なら俺は浮気などしなかった!」
「わ、わたくしのせいだと言うの?」
「ああ、そうだ。お前はデリーを身籠ってから俺の相手をしなくなっただろう? お前は妻としての仕事を放棄したんだ!」
「なんてことを! わたくしはデリーを10ヵ月ものあいだお腹で育てたのですよ! あなたの相手なんてできるわけがないでしょう!」
「お前のせいだ! お前とデリーのせいで俺は外で愛人に慰めてもらうしかなかった!」
何度も義母に指を差しながら強い口調で文句を言う義父。
それに対し、義母が感情的に叫ぶ。
「いい加減にしてちょうだい! もう、あなたとは離縁よ!」
「望むところだ! お前のような女の面倒など見たくもない!」
ぎゃあぎゃあ騒ぎ立てる義母と義父をよそに、デリーはキルアに許しを請う。
「なあ、キルア。俺は前からお前のことを愛していたんだ。あの目障りな娼婦に騙されて付きまとわれていた。あいつも牢獄に入ったことだ。俺たちはやり直せる」
「何を寝ぼけたことをおっしゃっているのか」
キルアが冷たく返しても、デリーは下手に出る。
「俺を許してくれ。一度でいいんだ。俺は変われる。お前のためにいい男になってやろう」
デリーの不気味な笑顔に、キルアは吐き気がした。
この一家のすべてが滑稽でおぞましい、ダークなマーブルチョコレートのようだ。
キルアはふっと鼻で笑った。
そして3人に背を向けて、おもむろに話す。
「最後に教えてさしあげますわ」
3人はぴたりと話をやめて、キルア背中に注目する。
キルアは顔を少しだけ傾けて、彼らに目線をやりながら告げる。
「私はメリルの娘、そしてセドルがキャリーの弟です」
それを聞いたデリーと義父は衝撃のあまり硬直した。
義母は意味がわからないというふうに夫と息子に顔を向けたが、彼らは顔面蒼白でだんまりだった。
キルアは振り返り、目を見開いて、憎悪のこもった表情で3人に言い放つ。
「さようなら、侯爵家のみなさま」