侯爵夫人の復讐

 キルアは伯爵家の令嬢で、優しい両親と兄に囲まれて幸せに暮らしていた。
 笑顔のあふれる家族だったが、突如その平穏が奪われてしまうことになる。


 ザグール侯爵家の当時の当主だったデリーの父はキルアの母に一目惚れしていた。
 何度も愛人になるよう誘っていたが、キルアの母は父のことを心から愛し、家族を大切にしていたため、誘惑に惑わされることはなかった。
 業を煮やしたデリーの父は無理やり逃げられない状況を作ってキルアの母を自分のものにした。


 そこからキルアの家庭は崩壊した。
 母は罪悪感で自害し、父はショックで酒に溺れた。
 兄はそんな父を慰めるためにふたりで旅行をした。
 のんびり別荘地で過ごしながら父と話し合いをするつもりだったのだろう。

 帰り道の山奥で馬車が崖下に転落し、父と兄は死亡した。
 キルアは伯爵家にただひとり残されることになった。


 キルアは父の葬儀のあと莫大な遺産を受け継いだ。
 顔も知らない遠い親戚が押し寄せて、キルアの後見人になりたがった。

 キルアはすべての親戚を追い払い、ザグール家に縁談を申し出る。
 キルアの遺産を知ったデリーと義母はすんなり受け入れる。
 そしてキルアに興味を抱いた義父は何の疑いもなく受け入れた。


 義父はキルアの母が自分のせいで死んだとは思っていないようだった。
 なぜなら彼は他の女たちにも手を出していたからだ。

 彼にとってキルアの母は遊び相手のひとりに過ぎなかったので、記憶の中からキルアの母のことはすっかり抜けていた。


 キルアはザグール家が今までに起こして隠蔽してきた悪事を調査しているうちにセドルと出会う。
 セドルには姉がいたが、婚約しているにもかかわらずデリーに付きまとわれていた。
 ずっと無視していると、ぶち切れたデリーが家に押し入り、姉に暴力を振るった。
 そのとき、照明(ランタン)の火が布団に燃え移り、家中に燃え広がって全焼してしまった。
 セドルの顔の火傷はそのときにできた。


 ふたりは侯爵家に入り込み、復讐することを誓った。


「私たちは直接手を下さない。少しずつ追い詰めて、彼らが破滅するのを待つだけよ」


 あくまで強硬手段はおこなわず、ひそやかにザグール家が滅びるのをこの目で見届ける。
 それがキルアとセドルの計画だった。



< 28 / 29 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop