破壊
鈴原は加減を知らない。手加減をしない。本気で谷坂を殴り、本気で俺に谷坂を殺させようとしている。殺してね、殺してくれたら俺がたくさん愛してあげる、とDomに愛されることで満たされるSubを煽るような台詞を吐きながら俺の髪を梳く鈴原の手は、狂気的なほどに優しかった。その手は簡単に、俺を壊していくようだった。
「すみません、また遅くなってしまいました……、って、え、これは、どういう状況ですか……?」
「先生、霧崎くんと谷坂くんが怪我してしまったので、保健室に連れて行ってもいいですか?」
「え、ああ、はい……、大丈夫ですか……?」
「大丈夫です。よくある男同士の喧嘩なので」
「喧嘩……。鈴原くん一人だと大変だと思うので、他に誰か……」
「先生、俺一人で十分なので、授業、始めてください」
口元だけに笑みを浮かべ、授業に遅れてやってきたために状況を飲み込めていない先生すらも黙らせる鈴原は、俺のみならず、この教室すらもコントロールしているかのようで。谷坂を押し倒して殴り、怪我をさせたのは鈴原本人なのに、あたかも自分ではない誰かが彼をそうさせたみたいに平然と嘘を吐いて見せる鈴原の目に、少しも動揺の色はなかった。罪悪感もなかった。保健室行こうね、と戦意喪失しかけている谷坂を起き上がらせ自作自演のように介抱する姿は、狂気以外の何者でもない。
「霧崎くん、"Heel"」
鼓膜がピキピキと鳴る。ふらつく谷坂を支える鈴原が、片手間のように俺の髪をさらりと梳き、殺して、よりも圧倒的に容易なコマンドを口にした。それには従えないはずもなく、俺は優しく触れてくれる鈴原の手を追いかけるように立ち上がり、廊下に出る彼について行った。一度教室を振り返り、余計なことは喋らないでね、とでも言うように、立てた人差し指を自身の唇に押し当てる鈴原に、Subでもないクラスメートすら息を呑むのだから、Subである俺が彼に逆らえるはずがなかった。
「すみません、また遅くなってしまいました……、って、え、これは、どういう状況ですか……?」
「先生、霧崎くんと谷坂くんが怪我してしまったので、保健室に連れて行ってもいいですか?」
「え、ああ、はい……、大丈夫ですか……?」
「大丈夫です。よくある男同士の喧嘩なので」
「喧嘩……。鈴原くん一人だと大変だと思うので、他に誰か……」
「先生、俺一人で十分なので、授業、始めてください」
口元だけに笑みを浮かべ、授業に遅れてやってきたために状況を飲み込めていない先生すらも黙らせる鈴原は、俺のみならず、この教室すらもコントロールしているかのようで。谷坂を押し倒して殴り、怪我をさせたのは鈴原本人なのに、あたかも自分ではない誰かが彼をそうさせたみたいに平然と嘘を吐いて見せる鈴原の目に、少しも動揺の色はなかった。罪悪感もなかった。保健室行こうね、と戦意喪失しかけている谷坂を起き上がらせ自作自演のように介抱する姿は、狂気以外の何者でもない。
「霧崎くん、"Heel"」
鼓膜がピキピキと鳴る。ふらつく谷坂を支える鈴原が、片手間のように俺の髪をさらりと梳き、殺して、よりも圧倒的に容易なコマンドを口にした。それには従えないはずもなく、俺は優しく触れてくれる鈴原の手を追いかけるように立ち上がり、廊下に出る彼について行った。一度教室を振り返り、余計なことは喋らないでね、とでも言うように、立てた人差し指を自身の唇に押し当てる鈴原に、Subでもないクラスメートすら息を呑むのだから、Subである俺が彼に逆らえるはずがなかった。