破壊
 俺はSubだ。Domに支配されてこそ価値がある。それがSubの欲求だ。理性よりも本能に、俺は素直に従った。鈴原に、褒められたい。愛されたい。その一心で。

 夢のような感覚で、漠然とした視界が広がる中で、俺はベッドに上がって谷坂の上に跨った。鈴原に呼吸を調節されているような谷坂は、ある種の拷問を受けているみたいに悶絶している。殴られた顔は痛々しく腫れ上がっており、いつまでも飛ばない意識が、いつまでも続く酸欠の状態が、谷坂をより一層苦しませているようで。早く楽にさせてあげたいと思ってしまった。

 両手を谷坂の首に近づける。鈴原の手が、俺と入れ違うように離れていく。その一瞬で息をしようとした谷坂の首を、今度は俺の手が絞めていた。同時に、鈴原の手が俺の首に触れていた。俺が手を緩めれば、絞められる。言葉はなくとも、瞬時にそれを理解した。

 ドクドクと心臓がうるさく鳴り響く。手のひらから自分のものではない脈拍を感じる。頭が熱くなる。呼吸が荒くなる。人を手にかけている緊張感と、コマンドに従う高揚感に、冷静さを失う。俺はもうおかしくなっている。自分を止められない。制御できない。殺らないと。このまま、首を絞め続けて、殺らないと。鈴原に、Domに、命令、されたから。

 谷坂が弱々しい手で俺の腕を掴む。苦しみから逃れようとするかのように爪を立てられるが、構わずに、それに負けないように、その痛みを飛ばすように、俺は首を絞め続けた。理性はもうなかった。殺すことしか考えられなかった。

 全身が煮え滾り、目の前が弾け、辺りが静寂に包まれた。消えた音と覆われた闇に平衡感覚を失い、俺はそのまま足を踏み外す。ぐらりと真っ逆さまに落ちて、堕ちて、壊れた。そこは奈落の底だ。狂って壊れた身体では、這い上がれない。一生。
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