シャロームの哀歌
 それから数年が経ち、年に数度だけイザクに会える生活が続いた。

 互いに距離を取り合いながら、それでもイザクは昔のようにやさしい言葉をかけてくれるようになった。
 それも自分が孤児院の院長だからだ。あれ以来ミリと目を合わすことだけは、イザクは一度もしてこなかった。

 イザクもいい歳だ。もしかしたら王都で家庭を築いているのかもしれない。
 会うたびに募る思いとは裏腹に、ミリは自分の気持ちから懸命に意識を逸らし続けた。

 そんなある日のこと、めずらしくイザク以外の役人が王都から視察にやってきた。

「イザク様は後から来られる。その前に施設を案内してもらおう」

 イザクよりもずっと年上で、態度もずっと横柄だ。そんな男の上に立つイザクはよほどの高官なのかもしれない。我がことのように嬉しく感じられて、ミリは胸の内で微笑んだ。

 責任者として丁寧に男を案内した。やることがあると気が紛れる。足の痛みすらその助けとなっていた。

「視察してきた中で、一番手が行き届いているようだな。これならばイザク様もさぞお喜びだろう」
「ありがとうございます、お役人様」
「しかしイザク様も……妻のひとりも(めと)らずに、いつまでもこんな末端の慈善事業に明け暮れているとは」

 イザクは未だ独り身なのだ。役人の言葉にミリの心が歓喜した。
 しかしすぐに自分を戒める。だからと言ってミリには何も関係のないことなのだから。

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